我が名はテレパシー

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幸いなことに操からのアプローチはそれ以降なかった。 だが普通に授業を受けていても、その存在は気になるものだ。 ―――他の超能力者があんな奴だったなんてな。 今まで別の超能力者に出会ったことがなかった。 そのため、もしかしたら仲間になれる可能性もあると思っていたのだ。 ―――マインドコントロール、か・・・。 詳細は全く分からないが、恐ろしい力だと思う。 自分のテレパシーはあまり役に立たないと思っていたが、そんな危なっかしい力も持ちたくなかった。 「おーい、久遠ー! どうしてテストの時、以心伝心をしてこなかったんだよー」 昼休みになると早々強ノ助は久遠のもとへ来た。 あの後操とは何もなかったようで、颯爽と屋上から飛び降りる、なんてことはなく普通に一度帰っていったらしい。  超能力者を殺してきたにしては、何だかおかしな気もするが。 「今答えを教えろ! 今答えを教えろ! って何度も目配せをしたじゃないかー」 正直強ノ助に構っている余裕はない。 というか、いつも構っている暇はない。 ―――テスト中、馬鹿から物凄い視線が送られてきたな。 ―――おかげでテストに全然集中できなかった。 ―――先生にも怪しまれていたし。 席が離れていたことが唯一の救いだったのだろう。 それにテレパシーは答えを教える能力ではないのだ。 「おい久遠、聞いてんのかー?」 今日もいつも通り強ノ助のことは無視し読書をし始める。 すると再び女子がやってきた。 「久遠くーん! 屋上へ来てほしいだってさー。 誰かからは知らないけど」 ―――アイツ、また屋上に来たのか? 断固として行かないことを選択すると別の男子が来た。 「おーい、久遠ー! 屋上で誰かが呼んでるぞー」 ―――誰かって誰だよ。 ―――肝心な部分が謎で気味が悪くないのか? もっともマインドコントロールされているのだろうから、疑問を感じることはないとも思う。 もちろん何度呼ばれても屋上に行く気なんてない。 しかし、しばらくしてやってきたのは生徒ではなかった。 「そうだ久遠。 お前、屋上へ呼び出されているぞ」 ―――ついに先生までも使ったか。 ―――アイツはどこまで暇なんだ? ―――というか学校はどうした。 ―――俺と大して年齢は変わらないだろうに。 ―――まぁ教室には入ってこれないみたいだし、それだけは救いか。 それから何人かが屋上に呼ばれていると言いにきた。 有難いのはそれだけを言ってすぐにどこかへ行ってくれるところだろうか。 「久遠、今日はモテモテだなー」 ―――流石に馬鹿でも今日の異常さには気付いたか。 ―――とりあえずここにいても読書の邪魔をされるだけだ。 ―――トイレにでも避難しよう。 ―――これ以上周りに集まられたら迷惑だ。 多くの生徒と強ノ助を何とかかわしながらトイレへと駆けた。 個室に入るなり鍵をかける。 ―――今日粘ったら、明日には諦めて帰ってくれるだろうか。 そのようなことを考えながら10分。 静まっていることを願いながらトイレを出る。 ―――本当はずっとここで待機していたいところだけどな。 ―――個室にこもり過ぎて、変な噂を流されたら困る。 教室へ戻ると集まっていた人はいなくなっていた。 安心して自分の席へ着き、椅子を引くと机の中から大量の紙が溢れ出てきた。 ―――何だ? 紙を開いてみると『屋上へ来い』とだけ書かれていた。 それも全ての紙に書いてあるのだ。 久遠がどこにいるのか分からないため、そうしたのだろう。  もし紙を書いたのが操の命令ではないのなら複雑な操作はできないのかもしれない。 ―――これもアイツの仕業か。 ―――まさかとは思うけど・・・。 命令を完全に遂行するわけではないのかもしれない。 “久遠に屋上へ来いと伝えろ”というのが命令なら、教室で姿を見つけられなかったなら久遠の机に紙を入れれば終わりということになる。 ―――全て違う字体だな。 ―――生徒一人一人に書かせたのか。 ―――ここまでするなんて暇な奴め。 ―――それにしても、机の中に入っているなんてまるでラブレターみたいだな。 ―――こんなにもらったことがないぞ。 ―――・・・あぁ、頭が痛くなってきた。 ―――保健室へ行って休ませてもらうか。 「おう、久遠。 頭を抱えてどうした? 大丈夫か?」 強ノ助が寄ってきた。 よくよく思えば強ノ助は自分に屋上に来いとは言ってこない。 今はそれがノイローゼになりそうな具合なので、操られていないのは救いのように思えた。 ―――・・・馬鹿か。 ―――また丁度いいところへ来てくれたな。 『少し保健室へ行ってくる。 この紙を全て捨てておいてくれ』 そう伝えると保健室へ向かった。 昼休みも操からの誘いを何とかかわし切った。
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