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さて、久遠がのんびりと久々の放課後を楽しんでいる時、操と捕らえられた強ノ助は山にある小屋に辿り着いていた。 何の用途で誰が建てたのかも分からないが、操は事前にここにあることを知っていた。
「おぉー! 山と言えばペンション! しっかしこのペンションには何にもねぇなぁー!」
強ノ助は捕まえたわけだが、特に縛ったりする必要なく自らの足で歩いてやってきた。 逃げる素振りも全く見せない。 もっとも操は逃げようとしたら捕まえる自信はあったのだが。
―――いや、どう見てもペンションではないだろう。
―――ただの寂れた小屋だ。
中に入ったのは操も初めてだが予想以上に廃れている。 隙間風も入ってくるし、電気がないため中は暗い。 それでも外で待っているよりかは幾分かマシだ。
「もしかしてお前、ここに住んでいるのか?」
「そんなわけないだろ! 元々俺はここの人間ではない。 今朝ここへ到着したばかりだ」
「じゃあどうしてこのペンションの場所が分かったんだ?」
「さっき君たちが授業を受けている間、暇だったから戦える場所を見つけておいたんだ」
「へぇー」
自分から尋ねかけたというのに強ノ助はもう話を聞いていないようだった。 ここへ来る途中もやたらと話しかけてきたのを憶えている。
他愛もない話だったが、何故か話が微妙に噛み合わず会話しているだけで疲れてくるのだ。
―――それにしても久遠の奴、全然現れないな。
―――かれこれもうすぐ二時間は経つぞ。
時計で時間を確認したため間違いない。 すぐに来いとは言わなかったが、強ノ助が人質になっているので悠長にはしていられないだろう。
―――一体何をしているというんだ?
―――今は夏だから明るくていいが・・・。
何もない小屋を見ながら一人不気味に爆笑している強ノ助に尋ねる。 一体何が面白いのか分からないが、独り言からすると壁が腐っていたことが面白かったようだ。
「・・・もしかして君、久遠に見捨てられたのか?」
「んー?」
操の見立てでは強ノ助は久遠といつも一緒にいる親友だ。 久遠に強ノ助が親友だなんて言えば怒り狂いそうだが、操が見る限りではそう見えたのだ。
しかしここまでやってこないとすると、その見立てははずれなのかもしれなかった。
「そんなに呑気にしているけど、今の状況は分かっているのか?」
「楽しいことをするんだろ! 山にいるんだし、キャンプとか!」
「違うわッ! 久遠が来なければ君はここで死ぬことになる」
「おぉ! どこに隠しカメラがあるんだ!?」
そう言ってキョロキョロと探し始める。
「ドッキリではないからないぞ?」
「知ってる! ドラマの撮影だろ?」
「それも違う! リアルだ! ノンフィクション!」
「へぇー! 早く見てぇー」
「いや、君がそれを体験するんだよ」
操は溜め息をつく。 やはり会話がどこか噛み合わず疲弊する。
―――あー、駄目だ。
―――コイツといると馬鹿が移る。
―――久遠の奴、よくずっとこんな奴と一緒にいられるよな・・・。
「君は久遠が助けに来なくて寂しくないのか?」
「ん? 別に? いつものことだし」
「うわ。 久遠の気持ちも分かるけど、流石に同情するよ・・・」
未だに何もない小屋を見て感動している強ノ助を見て、このままでは久遠は来ないし、強ノ助の相手ばかりさせられることになると考えた。 まるで押し付けられたかのようだ。
―――・・・仕方ない。
―――来る気配がないなら俺が呼びに行くしかない。
目的は久遠であって強ノ助ではない。 できればぐずぐずと時間を引き延ばしたくはないのだ。
「今から俺は久遠を呼んでくる。 それまで君はここを動くなよ?」
「おう! 分かった!」
そう笑顔で頷かれた。 マインドコントロールをしてもよかったが、そうすると何かあった時にマズいことになる。 マインドコントロールはかけやすい条件がいくつかあるのだ。
―――そんな笑顔で言われてもな・・・。
―――あまりコイツの言うことは信用できないが、両手をロープで縛っておけば大丈夫だろう。
―――・・・あ、待てよ。
―――オーラで捜すといっても、少なくとも100メートルまで近くに行かないと伝わってこないんだよな。
「おい、お前。 久遠はこの時間、どこにいるのか分かるか?」
「んー。 家以外なら、本屋とかか?」
「本屋か。 ありがとう」
「おー! それと、俺の名前は強ノ助だぞー」
何か言っているのを聞き流し、操は走った。 マインドコントロールで人探しできればと思うがそれは不可能だ。 超能力者を見つけるのは自分で出向いた方が余程早い。
本屋を手がかりに探し回り、30分経った頃ようやく久遠の姿を見つける。
「あーッ! いた!」
指差すと目が合った。 明らかに嫌そうな顔をされる。
「そんなに露骨に嫌な顔をするな! 遅いから迎えに来たぞ。 あの馬鹿も待っているんだ、早く来い!」
問答無用に久遠の腕を引っ張り本屋を後にした。
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