我が名はテレパシー

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我が名はテレパシー

極稀に超能力を持った人間が現れる。 見た目の変化や制約もなく、ただただ特別な力を扱うことができる。 選ばれた人間だとも言われるが、種としての保存能力は何故か著しく低い。  久遠(クオン)はそんな特別な超能力者の一人で念話、いわゆるテレパシーを使える能力者として誕生した。 ただその能力は限定的で酷く使い勝手が悪い。  それに種的少数に位置する超能力者は通常社会では恐れられることも多いのだ。 そのため能力のことを大っぴらに把握している人間は限られる。 まずは家族。  朝目覚めた久遠は背伸びをして一階にいる母にテレパシーを送る。 『母さん、おはよう』 「あ、久遠おはよう! ご飯作って待っているわね」 朝は声を出しにくいためテレパシーは便利だと思っている。 しょうもない使い方だが、これくらいしょうもない使い方の方が超能力は便利だと思っていた。  だが誰かがピンチに陥って、その能力で救うことができるなら久遠は使用を惜しむことはない。 ―――まぁ、あまりないけどな。 制服に着替え顔を洗いリビングへ行くと既に朝食の準備が整っていた。 パンとオムレツがメインの朝食は彩り豊かで、調理は自身のテレパシーより余程特別な力に思えるものだ。 ―――流石母さんだ。 ―――準備が早いな。 椅子に座ろうとすると母が廊下から二階にいる父を呼んだ。 「お父さん、起きてー! 遅刻するわよー」 ―――今日も父さんは寝坊か。 ―――いつも通りだな。 「もー、全く起きないんだから・・・。 久遠ごめん、起こしに行ってくれる? お父さん、何をしても起きないのよ」 ―――そういうことなら。 『父さん、朝だぞ。 起きろ』 久遠がテレパシーを使う時、特別なことをする必要はない。 ただそうしたいと思うだけでいいのだ。 テレパシーは耳からの音ではなく頭に直接響くよう働くため、目覚ましには丁度いいらしい。  二階から聞こえてくる大音量の目覚ましよりも“効く”というのだ。 ―――にしても一階にもこれだけ目覚ましが聞こえるっておかしいだろ。 ―――うるさいのによく父さん眠れるな。 ―――何をしても起きないなら、直接脳内に声を届けた方が早い。 ―――・・・あ、目覚ましが止まった。 ―――ようやく起きたか。 母親もそれが分かったのか、思い出したように言った。 「あ、そうだった! お父さーん! 裁縫セット、私の部屋から持ってきてくれるー?」 「あぁ? 何だってー?」 「裁・縫・セッ・ト!」 「サイボーグ?」 「もう、どうしてそうなるのよ!」 たまにテレパシーを使わせるためにわざと間違えているのではないかと思うことがある。 こんな聞き間違いは日常茶飯事だからだ。 ―――聞いていられないな。 それでもテレパシーを使ってやるのは、久遠なりに能力を役立てようと思っているからなのかもしれない。 『父さん、裁縫セットだって』 「あぁ、裁縫セットか。 分かった」 「全く・・・。 お父さん、もう歳かしらね」 母は苦笑する。 久遠の家は三人家族でいつもこのような感じだった。 朝食を食べると早速学校へ向かう。 「気を付けてねー!」 母に見送られ父より先に家を出る。 これも日常だ。 ―――ん? 道を歩いていると電信柱の工事をしている人を発見した。 何気なく見上げると、男性の腰に巻いている道具入れからスパナが落ちそうになっている。 ―――あれは流石に危ないな。 どのくらいの重さかは知らないが、下を通った時に落ちて当たればタダでは済まないことは明白だ。 こういう場合は久遠も迷わず能力を使うことにしている。 もちろん男性とは一切の面識はない。 『スパナが落ちそうですよ』 「え、スパナ? あ、本当だ。 ありがとうございま・・・! って、誰!?」 驚いている男性をスルーし、何事もなかったかのように平然と通り過ぎていく。 これくらいの使用が丁度いいのだ。 首を傾げる男性を見て満足気に腕を組んだ。 ―――外でテレパシーを使えるとしたら、このくらいなんだよな。 ―――自分に被害が来るのも嫌だし、目撃者になるのも嫌だ。 ―――そういう時にしか使用しない。 ―――・・・さて、いよいよか。 学校へ着くと一人の男子生徒を発見した。 家族以外にも一人テレパシーのことを知っている者がいる。 それがコイツだ。
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