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 でもだからこそ、今を大切に生きていきたいの。恐怖に支配されたくなんてないわ」  限りある中で、知らぬものを抱えながらも必死に生きようとする様は見上げたものだ。 「……強いんだな」 「そう? まぁヒューイよりは強いわね」  自慢げな顔で紅茶を香るので、全くだと感じながらそれに続いた。  そして何の偶然か、カップを戻す動作が鏡のように重なりカチャンと音が揃う。それが面白かったのかクリスタは目を細めて笑い始め、俺もつられてしまった。どうも調子が狂う……いや、調律されているのか。  戦争では自分を人でないものに見立て、心を殺し戦った。だが仲間は守れず、命令とはいえ罪もない人を殺し、帰ってみれば家族は戦災に巻き込まれ死亡。何一つとして守ることが出来なかった。残ったのは絶望と自分への畏怖だけだ。  だが怖いからと逃げてしまえば、クリスタのような懸命に生きる命を奪っておきながら捨てることになりやしないか。ともすれば冒涜に他ならないのかもしれない。クリスタの話を聞くと考えさせられる……。
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