[1]

11/18
前へ
/18ページ
次へ
 この日を境に部屋掃除は、秘密のティーセレモニーへ姿を変え、そこでは描いた絵を見せられたり、花の名前を教え込まれたり。俺は言葉少なに、話を聞くのがほとんどだったが、それでも彼女は満足している様子だった。そして俺は、その度に何かを取り戻していった。ちょっとずつ……紅茶の味の変化のように。  そんな日々を二か月ほど送ったある日、俺は主のクラウスに呼ばれ執務室へ赴いた。座るよう言われた俺は、アールヌーボー様式のソファに改まる。向かいに座るクラウスは、クリスタと同じサラッとした髪で、知性を漂わす眼鏡をかけている。貴族の風格は内から滲んでいた。俺が雑草ならクラウスはエリカと言ったところか。  俺の家は代々、アインホルン家に雇われている。だから戦争が無ければ、俺もここへ来るはずだった。つまり俺の掃除作法は親譲りというわけだ。  そしてクラウスは、復員後に長らく路頭で迷っていた俺を探し出し、当初の予定通り掃除夫として招いてくれた。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加