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「別に、咎めるために話題にしたわけじゃないさ。むしろ続けてもらって構わない」
「そう、なのですか……?」
気品のある笑みで、俺の顔から戸惑いの色を消したクラウスは懐中時計を腰元から取り出し、中を見せてきた。
そこにはローブ調ドレスの女性がしゃがみこんで、幼少のクリスタであろう子の頭を撫でる姿。
「この情けない顔、誰だか分かるか?」
「はい。もしかして御婦人のドレス……」
「ああ、クリスタのお気に入りだ。
この写真は、病に侵された妻が最後になるかもしれないと悟り、あの子と撮ることを望んだのだが、クリスタは撮り終えることで最後を認めるよう感じたのだろう。大変に抵抗した。号泣した後なんだ、こんな顔で写ってしまって、ははは」
「今とはまったく異なった印象です……」
「そうだろう。妻が亡くなってからは、泣くこともなくなったんだが……どこか気丈に振る舞っている気がしてならなかった。
だから、そうやって気兼ねなく話せる者が側にいて欲しいんだ。あんなに楽し気な顔をするのは、君の話をする時ぐらいなんだよ」
ルーツはここか。最後まで生を全うしようとする強さは母譲りで健在のようだ。
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