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 さっきの笑みはどこへやら頬が風船状態。このまま放っておけば、空に浮かんでいきそうだ。 「ねぇ、なんで無視なのー?」  服の裾をクイっと引っ張ってくる。今日すでに三十回目だ。  縁あって、ここアインホルン家のカントリーハウスへ掃除夫としてやってきたのは一か月ほど前。クリスタは当初から、なぜか俺に話しかけてくる。他にも、話し相手になりそうなハウスメイドやフットマンが住み込みで働いているというのに。  ちなみにクリスタは学校に通っていない。つまり暇があったら、俺のところに来る。 「ねえったらー! どうして無視するのよー」  というふうに。無視していれば、諦めるだろうと思っていたが……当初からまったくその気配がない。  俺は構わず、最後の乾拭き作業を始めた。 「ヒューイー! おーいっ! ねえってばーこのあと私の部屋掃除でしょ?」  ドイツ人は綺麗好きだ。整理整頓ができれば人生の大半はうまくいくという諺があるように。掃除はルーチン化していて、民家で一斉に窓拭きを始める光景だって珍しくない。サッカーだってマメなパスが大事だろ? それと同じだ。ドイツ人はマメなんだ、何事にも。
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