[1]

9/18
前へ
/18ページ
次へ
「やめとくよ。笑いなんて似合わない」 「なら似合うようにすればいいでしょ? 私が手伝ってあげるから!  ねぇ……ここに来る前に何かあった?」  クッキーを撫でるように触れ「話す程のもんじゃない……」と呟く。クリスタは俺がクッキーを口へ運ぶのを待ち「そう……」と落ち着いた声色で。  そして何かを悟った仕草を見せていたかと思うと、両手に顎を乗せて俺を見つめてきた。春の花をめでる様な目で。 「なにか……変か?」 「ふふっ、別にぃー」 「……なぜ嬉しそうなんだ?」 「ヒューイがいるからよ」 「……そうか」 「ねぇ……怯えているの?」  俺の喉が鳴った。別に菓子を飲み込んだからじゃない。心が見透かされた様に感じたからだ。 「……どういう意味だ?」 「あなたは自分に怯えてる」 「自分に……?」 「そう。私は人と違うでしょ? 怪物のような自分に怯える私に、あなたはそっくり……写し鏡みたいって思ったの」  無邪気さのベールを脱いだ顔からは、一人の聡明な女性が窺えた。 「……自分が、怖いか?」 「ふふ、怖いわね。だって寿命も短いかもしれないし、もっと目が悪くなっていくかもしれない。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加