memory

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「はぁはぁはぁ……」 街の雑踏はもう耳には入ってこない。 汗やら何やら分からない雫が、私の頬を背中を濡らしていく。頭の中では同じ言葉が何度も再生される。 『あなたが美乃梨さん?裕翔がビルから飛び降りて、意識不明の重体なんです。早く病院に来て下さい』 裕翔くんのお母さんからだった。泣いている様だった。 ガタガタと体中が震え、一瞬で頭が真っ白になった。 そして亡くなった彼を思い出した。 私はまた大切な人を失ってしまうの? もう二度とイヤだ、イヤだ、イヤだ…… どうか神様、裕翔くんを助けて!! ガラッ 不気味な規則音が響く部屋に、彼は瞼を閉じ眠っていた。顔も体も不思議なぐらいにキレイだった。 名前を呼びかけたらいつものように優しく微笑んでくれそうな気さえする。 「裕翔……くん?」 「美乃梨さん、ありがとう。あなたの事、私に良く話してくれたのよ、裕翔……手を握ってあげてちょうだい」 「はい……」 ベッド横の椅子に腰掛け、彼の手を握り締める。 「こんなキレイなのに意識がないって不思議でしょう?ビルの下に植込みがあって助かったみたいなんだけど、お医者さんが言うには自らの意思で意識を取り戻さないのかもしれないんだって」 「自分の意思で?」 「裕翔が自殺するなんて……信じられない。何で、悩みに気付く事が出来なかったのかな……」 「私も信じられません……」 「ご、ごめんなさい……私は荷物などまとめてくるから、良かったら裕翔の側に居てあげてね」 「はい……」  私は手をぎゅっと握り返し、彼のキレイな顔を見つめた。 どうして……自殺なんて…… 彼の苦しみに気付いてあげられなかった。 自分の意思でこっちに戻って来たくないとしている? どうしてなの?教えて欲しい。 私を置いていかないで。 「裕翔くん……戻ってきて!お願い!」 彼の手をおでこに当て、目を瞑るとまた雫が零れ落ちた。 その時、人類が発明した人の記憶に入れる機械を思い出した。その機械は病院にもあるはずだ。その機械は植物状態の患者に使用して、意識を取り戻したという奇跡を起こしたと聞いた事がある。 私には関係ないものだと思っていたが、彼を取り戻せるなら使いたい。彼の記憶に入り込んで彼の悩みや苦しみを知りたい。そして、また私と一緒に生きて欲しいと思う。 私は貯めていた貯金から100万円を払い、その機械を使う事を決心した。 次の日、 私は裕翔くんの隣のベッドへと横になり、管がたくさん付いたヘルメットみたいなのを被された。その管は裕翔くんのヘルメットへと繋がっている。 そして彼の右手をぎゅっと握り締めた。 「さぁ、始めます。目を瞑ってしばらくすると彼の記憶の中へと移動します。お気をつけて」 「はい」 待っていてね。今すぐ行くからね。 隣の彼を一目見つめてから、静かに瞼を 閉じた——。
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