8.

3/3
前へ
/29ページ
次へ
 地球へ帰る事になった。アストロと真美は同じ便に乗る。 「どうしたの、楽しそうね?」 「メールが来た、良いニュースだった」  真美の問いに、アストロは答えた。 「ぼくを襲ったやつが死んだ。警官に射殺されたそうだ」 「射殺・・・」  人が死んだ、普通は悪いニュースのはず。  でも、アストロには良いニュースである。無理して、大人のふりはしない。善人の仮面をかぶるのは止めた。  あの西口彰は保釈されていた。  保護観察の名目で、また街中で暮らしていた。  そして、またしても事件を起こした。ナイフで女性を襲い、大ケガをさせた。  駆けつけた警官は警告して銃を向けた。  なおも、西口彰は警官に襲いかかろうとした。  警官は西口の足を撃つ。なおも、西口はナイフを振るおうとする。  警官は西口の肩を撃った。それで、ようやくナイフが手から落ちた。  病院に運ばれた時、すでに西口の息は無かった。  当該の警官は、以前にも西口の逮捕にかかわっていた。顔を見知っていた。 「住宅地に迷い込んだクマを駆除したのと同じさ。裁判を受ける資質の無い者は、犯罪の現場で射殺。それが最善だ。やる時はやるもんだ、警察も捨てたもんじゃない」  もう、襲われる心配は無い。アストロは笑みで座席に着いた。  真美は首を傾げるが、それ以上は考えないようにした。所詮、自分の問題ではない。  地球に帰ったら、麻生真美は決断しなくてはならない。月に住むか、否か。考えるほど、胃が重くなる気がした。 「当機は地球、日本の砂川スペースタワー行きです。座席に着いたら、酸素マスクと吐しゃ物吸引マスクを点検して下さい。動かないようなら、客室乗務員へお知らせ下さい」  機内アナウンスがあった。  札幌は捨てるほど悪い街じゃない、アストロは見直していた。  シートベルトを締め、目を閉じた。また地球の空気を吸える、しばしの夢を見よう。  何億年も未来の夢は必要無い。ほんの数年先の未来の夢が望みだ。  < おわり >
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加