スーパーヒーローのエゴ

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 「さぁ、問題です。私は善人でしょうか、悪人でしょうか?」 私の目に映ったスーパーヒーローは、ただの正義の味方ではないようです。  今日は、何の変哲もない日でした。私はいつものように学校帰りにスーパーへ走り、タイムセールで勝ち取った戦利品を片手に家路に着いていました。  そして別に何の面白みも無い帰り道を、考え事をしながら歩いていました。それが行けなかったのでしょうか?交差点を突っ切ろうと一歩踏み出した瞬間、盛大なクラクションと共に真っ赤な車が私の目の前ギリギリを通り過ぎました。車の中から怒号が聞こえましたが、それよりも首根っこを掴む冷たい手に背中に嫌な汗が流れます。  私がビクビクしながら後ろを振り返ると、そこには私よりも頭二つ分ほど高い男性が立っていました。その男性は私が振り返った瞬間、パッと首根っこを掴んでいた手を離し、その拍子に力の抜けた私は地面に座り込んでしまいました。   それに構うことなく 「さぁ、問題です。私は善人でしょうか、悪人でしょうか?」 モノクロの服を着たスーパーヒーローはそう言いながら、腰が抜けた私に手を差し出しました。  私はその手を取って良いのか否か一瞬迷いましたが、好意には甘えることにしました。とても冷たい手を握って立ち上がり、服についた砂を払った私はもう一度その男性を見上げます。その視線に気付いた男性は、にんまりと口角を上げて 「答えてください」 と言いました。  確かにこの方はスーパーヒーローです。善人だと言えるでしょう。車に轢かれかけた私を救ってくださいましたし。ですがこの方が求めている回答は、そのような薄っぺらいものでは無い気がしてなりません。 「なぜ、あなたは悪人だと思うのですか?」 きっとこの方は自分を善人だと思っていないのでしょう。きっと、この方は賢いのです。気付いていらっしゃるのでしょう。ですが男性は私の質問には答えず、 「質問は質問で返すものではありません」 と返しました。 「あなたは…お節介だと思います」 私は試すようにそう言うと 「それは選択肢にありません」 そう不満げに眉を顰められました。  ならば、お答えしましょう。  「あなたは悪人です」 こう言った私の声は震えていました。ですが私は構わず言葉を続けます。 「なぜ、止めたのですか?なぜ、無駄なことをしたのですか?」 楽になれたのに。 「私のエゴです」 あなたはそう返して、踵を返しました。それは私のその言葉が聞けて満足だからというより、私の回答に面白みが無かったからだと感じました。  あの時、考え事をしていました。このまま進めば楽になれるのか、と。車のエンジン音は聞こえていました。きっとこのまま行くと轢かれるだろうと分かっていました。ですが私の足は止まってはくれませんでした。死にたいと、明確に思ったわけではありません。ですが今の暮らしより、確実に楽になれるだろうと思ってしまいました。  「でも、あなたは世間的には善人でしょう」 そう言った私に、スーパーヒーローは振り返り 「善か悪かは、世間ではなく、当事者が決めるものです」 と笑いました。にんまり笑顔ではなく、ただ口の端だけ不器用に上げて。  これは言おうか迷いました。何故か言ってしまったら癪だと感じたのです。でも、不器用なスーパーヒーローの笑顔を見てしまったら、言わないという選択肢は無くなってしまいました。  「あなたが助けてくれた時、ホッとしたのは事実です」 別に助けられたからと言って、楽になりたい気持ちは変わりません。日常が変わるわけではありません。ですが、死にたいと思ったわけではないので。止まってくれない足を、無理矢理止めてくれてありがとうございました。  そう言った私にスーパーヒーローは何も返さず、代わりににんまりと笑って、魔法のように目の前から消えました。  私は無言でレジ袋を拾い上げ、歩き出しました。今度から、私の足はきちんと止まってくれるような気がしました。
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