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 ヒカリの前にトーストのお皿を置く。バターと苺ジャムの瓶も次々と置く。  ヒカリはびっくりした。「だれって……猫だよ。うちの猫」 「うちに猫なんていないよ。なんの話?」  お母さんはそう言って、お盆を抱えて台所へ戻っていった。ヒカリはぽかんとして、何て言っていいか分からない。  こんがりと焦茶色のトーストは、お皿の上でおいしそうに見えた。香ばしい匂いがして、ヒカリのお腹がぐうと鳴った。お母さんは冷蔵庫を開けてパックの牛乳を取り出して、ヒカリの水色のマグカップと一緒に持ってきた。 「ねえ!」とヒカリは大声を出した。「猫なんていないってどういうこと? ももがいるじゃない」  牛乳をマグカップに注いで、お母さんは座った。庭を背にして、逆光で影になった見えにくい表情で、お母さんは笑った。 「夢を見たのね。夢の中で猫を飼っていたの?」 「ゆ、夢なんかじゃ、ない」言葉が追いつかなくて、ヒカリはどもってしまった。「夢じゃなくて、本当に飼ってたんだよ」 「ふうん。名前はももって言うのね?」 「うん。て言うか、知ってるでしょ? お母さんの猫だよ」 「私の猫?」  お母さんはお盆を膝に乗せて、庭の方を見た。「そうね。猫を飼ってみたいと思ってたわ。結局、機会がなかったけど」 「だ、だ、」とヒカリはつっかえて、「だから、飼ってたんだってば。昨日までうちにいたんだよ!」
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