卓也

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卓也

 しかしそんな努力も空しく、幼い頃はかわいらしかった卓也も成長するにつれ悪いグループと付き合うようになり、高校生になる頃にはいっぱしの「不良」を気取るようになっていた。 「卓也!昨日はどこ行ってたの、お母さん心配したんだからね!」 「っせえババア!!」  酒とタバコと不良の匂いをさせながら朝帰りした16歳の卓也は、そのまま二階へとかけ上がりバターンと乱暴にドアを閉めた。そして知らぬ間に勝手に取り付けたカギをかけ、真奈美が仕事に出かけてしまうまで、自室から出てこないのだ。  そんな事が、いつの間にか頻繁に繰り返されるようになっていた。卓也の祖父母である真奈美の両親が1年前に病気で相次いで亡くなってからは、卓也の素行もますます悪くなる一方であった。  そんなある日、ついに決定的なことが起こった。  早朝4時頃、例によってドタドタ帰ってきた卓也。その物音に起こされた真奈美だったが、疲れすぎて眠すぎて怒る気力もなく、もう放っておこうと思い寝なおそうとした。すると意外な事に、真奈美の部屋に卓也が入って来た。 「……卓也? なんなの、もう。お母さん仕事で朝早いんだから」  しかし卓也は部屋の真ん中にボーっと突っ立ったまま、何も言わずにただただ荒い息をはずませている。 「卓也?」  真奈美が再度声をかけたとたん、卓也は床に崩れ落ちうずくまったまま号泣しだした。 「母さん、おれ、やっちゃったよう」 「なんなの、何、ちゃんと話してよ」 「……死んだ、あいつ、死んだ」  しゃくり上げながらそれだけ言うと、卓也はまた激しく泣きだした。驚いた真奈美が体を起こし部屋の電気を付けると、そこには血まみれになった卓也がいた。 「卓也! ケガしてるの? どこ、落ち着いてお母さんに見せてごらん」 「おれ平気、あいつが、あいつが、あいつの血が」  よく見たらそれは、どうやら返り血のようである。そして卓也の手には血まみれのナイフ。真奈美は全身から力が抜けていくのを感じ、卓也の肩に手をかけたまま思わずしゃがみ込んだ。体の震えが止まらない。
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