足跡

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足跡

 そこから先は早かった。後を追って来たようですぐ警察がやってきて、有無を言わさず卓也を連れていってしまった。そして裁判。殺人という「凶悪犯罪」を犯した卓也は、未成年ではあるが16歳以上という事で、少年刑務所行きとなった。  もともと気の弱い性格であった卓也には一連の出来事から受けるショックが大きすぎたようで、精神的なバランスを崩し意味不明な言動を繰り返すようになった。そして卓也はそこからさらに遠方にある、医療少年院へと送られることになった。  広い家に一人取り残された真奈美は、それでも生活があるため仕事には行っていたが、まわりの視線に耐えきれずほどなくして退職した。  それからは外にもほとんど出ず、外界との接触をたち家にこもりきりとなった。  私はいったい、今までなにをしてきたんだろう。  ゴミが散乱し荒れ放題の家の中で、真奈美は一人呆然としていた。自分のすべてを犠牲にして、恋人はおろか友達づきあいすらせず、すべてを卓也のために捧げてきた。  卓也。卓也。たっくんの笑顔さえあれば、私は幸せだった。卓也。たっくん。たっくん、どこいったの?たっくん!  真奈美は庭に出ると、大声で卓也を呼んだ。 「たっくん!たっくん!たっくん!たっくん!たっくん!たっくん!たっくん!たっくん!どこにいるの!たっくん!たっくん!たっくん!たっくん!たっくん!」  午前3時に騒音で起こされた近隣の住民が通報したとみえ、パトカーがやってきた。 「どうされました、何かありましたか?」 「あの、子どもが、息子がね、いなくなったんです。たっくん、あの卓也っていうんですけど、あの、ちょっと探しに行かないと。お巡りさん助けてください。あの子悪い子じゃないんです。優しい子なんですほんとは。友達が悪かったんです。あの子悪くない。誰も悪くない。私は悪くない。悪くない悪くない悪くないたっくん悪くないママもたっくんも悪くないもん、私がんばってるのになんで、ねえ、たっくん助けて助けて助けて助けて!!」  真奈美は警官の制止を振り切って車庫に駆け込むと、そこに例の足跡を見つけた。あの時の卓也は6歳。ちいさくかわいらしい足跡が、コンクリートの上に点々と散らばっている。
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