シェフと見習い

1/3
前へ
/14ページ
次へ

シェフと見習い

 おや? おやおやおやおや?   総二郎(そうじろう)は水晶玉を覗き込むと、雄叫びをあげた。 「また見つけたぞ! 丞之信(じょうのしん)よ!」 「またですか」  「ああ。まただ。けしからん! すぐに参るぞ!」  水晶玉に映し出された下界。その中の人物のもとへと二人は飛び立った。  護美(ごみ)総二郎とその息子、丞之信は天空より下界を見守る神の一族だ。    たどり着いた先はレストランだ。厨房にはシェフと見習いらしき人物がいる。見習いは、ひたすらシェフの足元から調理器具まで、きれいに掃除し続けている。  二人はそれをしばらく見守った。  透明な姿は、人間には見ることができない。そのまま数時間、二人は見続けた。 「父上、立派ではないですか」  延々と掃除を続ける見習いを見て丞之信は言った。弟子と師匠の姿。丞之信の頭の中には『見て盗め』という言葉が頭に浮かんだ。 「丞之信よ! おまえの目は、節穴か!」  丞之信の耳がキーンと鳴った。耳の穴に指を突っ込んで鼓膜の安否を確認した。 「よく見ろ、あの二人。さっきから、ずっとあのままだ」 「はい。見ておりました」 「あの二人はな、何年も、あのままだ」 「それが師弟というものではないでしょうか」  総二郎は人差し指を左右に振ると、チッチッチと舌を鳴らした。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

28人が本棚に入れています
本棚に追加