草2:お嬢様付きの魔法使い

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草2:お嬢様付きの魔法使い

 バンッ!  大きな音とともに、扉が開かれた。  主催者側も予期せぬことだったのか、スタッフと思しきスーツの男たちが慌てているのが目に入った。  ――何が、起こっているの?  どんどんと変わっていく周りの状況に全く頭が追いつかないでいるうちに、扉を開けた主がずんずんとこちらに歩み寄ってくる。  舞台の明かりが届くところまで来たところで、それが細身の青年であることが分かる。  黒いとんがり帽子にマントを羽織り、なんと足下には黒猫まで連れていた。  もちろん、知っている人ではない。 「くそっ! 何者だ! 私のオークションは許可なき者には開かれていないぞ!」  ディーラーの男が忌々しげに告げ、私―商品を隠すように眼前に立った。 「おやおや。うーん、僕はきみには用はないよ。僕がお話したいのは、そちらのお嬢さんだ。  やあやあ。ナズナお嬢さんだね? 僕はお嬢様付きの魔法使いさんと申します。《私のすべてをあなたに捧げ、すぐにお救いいたします》のでしばしお待ちを~☆」  そう言うと、魔法使いさんと名乗った青年はひょっこり顔を出して手をひらひら振っている。 「勝手なまねを! 話したいだと? そんなこと、易々と許すとでも思っているのか? 乱入してきておいて、何様のつもりだっ!」 「許すとか許さないとか、そういう問題ではないんだよね。なんてったって僕は、お嬢様付きの  “魔法使いさん”  だからね!」  “魔法使いさん”はにやっと笑い、指をパチンと鳴らした。  恐怖しか感じないオークション会場や、仮面の人々、ディーラーを私が目にしたのはその時が最後だった。
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