坂道の果て

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 大学受験当日の朝、満員電車から予定通りスムーズに脱出した嶋次郎は、受験会場である志望校へと続く坂道を歩いていた。右へ左へうねりながら延々と続くその登り坂は、まるでこの一年間の道のりのようだなと思いながら。  だが嶋次郎がこの道を辿るのは初めてではない。それは彼が浪人しているという意味ではなく、彼は何度もこの道を実際に通ったことがあるということだ。  嶋次郎は予行演習と称して、受験前に何度も志望校への道をその足で確認していた。もちろん当日と同じ時間帯の同じ電車に乗り、同じ道のりを歩いて。それが勉強をサボるちょうどいい理由になっていたことも否めないが、そこは「息抜き」と心の中で都合よく言い換えてみたりして。  受験へと向かう嶋次郎の足取りの確かさは、間違いなくそれら数多の予行演習によって支えられていた。道すがら、今さらスマホで地図を確認している受験生を見つけるたび、嶋次郎は勝利への確信を深めるのだった。おいそこのキミ、テスト中にスマホで解答を調べることなどできないのだぞ、とでも言ってやりたい気持ちをグッと抑えて。  予定通り駅から十五分ほど歩いたところで、嶋次郎はいよいよ緊張感が高まってくるのを感じた。いよいよこの一年間の、いやこれまで送ってきた人生十八年間の、総決算とも言うべき一大決戦がはじまるのだ。
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