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第4話 待ち合わせは組合所前で。それから………
翌朝、わたしは『黄昏に消えゆく魂』の皆、エドと冒険者組合所で待ち合わせていた。追放劇が円満脱退になったのはとてもめでたいと、あれから乾杯してあたしは売れ残ってたケーキを全て完食した。
わたしが着いたときは早朝、お決まりの依頼争奪戦でかなりホールは込み合っているときだった。
あたしが現れるとホールが静かになるのはなぜなのか。
勝手に割れる人混みを優雅に突っ切り、待ち合わせコーナーというか、休憩所へ向かう。そこ!「白ダーシシ」ってボソッと言ったの、しっかり聞こえてるからね!!
あたしが暴言吐いた奴らを睨んでいると、やがて、大量の荷物を抱えた『黄昏に消えゆく魂』のメンバーがやってきた。
「おはよう、マユさん」
朝からイケメンスタンリーの笑顔がまぶしい。イケメンて、朝からイケメンなんですね………。
「おはようございます、皆さん。………すごい荷物ですね」
リュックにカバン、とにかく多い。これを持っての冒険者活動はできないと、どんな初心者でもすぐにわかる。
「俺たち、拠点を変えることにしたんだ。………エドを頼む」
「はい」
「幸せにしてやってくれ」
「おい、待てお前ら」
エドさんの突っ込みは完全に流されている。
エドさんのパーティー脱退手続きに、街を移動する手続き。それらを済ませた『黄昏に消えゆく魂』はギャップが引く乗り物で街を出ていった。こういう時の別れというものはずいぶんあっさりとしたものだと思う。
残されたあたしとエドさんは、そのままパーティーについての話し合いだ。
「さて、まずは互いの呼び名だが、自分のことは『エド』と呼んでくれて構わない」
「わかった。あたしは『マユ』で」
エドの荷物はかなり少ない。『黄昏に消えゆく魂』は家を一軒借りており、そちらも引き払ったということだけれど、荷物の量はそんなものでよいのだろうか。
「了解した。次に、パーティー名はどうする。あと、拠点を作るか否かも決めておきたい」
「拠点………しばらくはそれぞれ、借り部屋でいいんじゃないかな?」
これでも年頃の男女だ。同居ってのはいかがなものだろうと思う。主にわたしの精神が持たないと思う。まさか、憧れのエドとパーティーを組めるなんて思ったことなかった。
パーティー名、パーティー名………ねぇ………。
「自分としては『深海に積る雪』なんてどうかと思うのだが」
「なんか、かっこいいけどどんな由来が?」
「特にはない。閃いただけだ」
無いんかい!と叫ばずにいられた自分を誉めてあげたい。
「んー、特に思い付かないし、さっきのをもじって『深海の星』でどうかな?」
エドが首を傾げた。近くで初めてじっくりと見たその顔は、とても知性に溢れているような気がする。いや実際インテリ派なのだけれど、エド。
ちょっと眠たそうにも見える、その瞳は藍色。『深海の………』てつけたくなるのはなんとなくわかってしまう。そうでなければ『夜空』だろうか。
星、はあたしたち冒険者が求めるランクづけに関するあれこれだ。
ここで冒険者の初心者は銅級と呼ばれる。そこそこで銀級、それなりの実力者で金級。
ランクを上げるためには依頼でポイントを稼ぎ、試験を受けないといけない。もちろん筆記と実技、両方ある。
ちなみにあたしは金の上の実力を誇る、星の二級だったりする。確か『黄昏に消えゆく魂』のメンバーたちもほとんどが星級だという噂を聞いている。
まぁ、あたしはそこそこ強いのだ。自覚はある。
「良いだろう」
こうしてフワッとした感じで、あたしたちのパーティー名は決定された。
今日は依頼を受けず、パーティー申請を出して、あたしが利用している宿に空き部屋があるかを確認しに行き、それからちょっとお互いを知るために、無難な採取に向かうこととした。
部屋は問題なく借りられ、あたしが昨日考えていた通り、リルカの実を取りに行く………筈だったんだけど。
「待て、マユ。休憩にしてくれ」
「ちょっと、まだ街を出てから一時間も歩いてないんだけど!?」
エドは、びっくりするくらいに体力がなかった。
「ねぇ、そんなんで前はどうしてたの? 回復かける?」
あたしの本職は回復職だ。 ソロだったから、攻撃もやるしかなかっただけで。
そして、魔法攻撃よりも杖で殴った方が敵を倒すのが早かったし楽だっただけで、本来は回復職だ。
「………運んで貰っていた」
「………は?」
聞けば、今までは背負子のようなもので運んで貰っていたそうだ。
………あたしでもちょっと頑張れば出来そうな気がする。こちらに来てから、あたしはアニメキャラかよってほど、びっくりするくらいに力持ちに成長した。きっと成人男性の一人くらいなら、担いで走れる気がする。回復職だけど。
そして、道中の戦闘でもエドは弱っちかった。本当に『黄昏に消えゆく魂』のメンバーだったのか、疑いたくなる。
ただ、エドのかけてくれる支援術のお陰で、あたしの戦闘はかなり、いや相当楽になったのも確かである。でもね、跳ねた小石程度で大ダメージを負うのはちょっといただけないと思う。ひ弱すぎる。
「戦闘が終わったら、すぐに素材を採取、魔物の死骸は浄化しろ」
「ああ、雑だ、そこの処理はそうじゃない」
「さっきの戦闘、あれはなんだ? あれでは自分の身が持たない。もっとこちらに配慮をだな」
しかもなんか、細かい。口うるさい。自分じゃ動かないくせにと言いたくなる。………この半日足らずでエドがパーティーから追放された理由を察してしまった。
「着いた!」
「………これが、リルカの実か?」
「そうだよ。タルトにするとすごく美味しいの!昨日のレストランに持っていって、調理して貰おうと思って」
「そうか。それは楽しみだ」
ふわりと微笑んだその横顔に、なんだかあたしはもう、リルカの実のタルトを食べたような気持ちになった。なにそれ、なに、なんなのその笑顔………!!!!!!(言葉にできない悲鳴と歓喜の雄叫び)!!!!!!
エドは『倉庫』の魔法を使うことが出来た。そこに入れておけば傷まず、大量に品物を持ち運べるとのこと。
たぶん、引っ越し荷物はそこに入っていたのだろう。
帰り道、へばったエドを担いであたしは街へと向かう。宿で体を清め、いつものレストランに向かう。
今日の夕食はオムライス、それとミートローフ。
対面に、『パーティーメンバー』。
そこであたしたちは反省会をする。
「自分は、マユと比べるとかなり弱いだろう」
「うん、そうだね」
「体力もない。全員星級のあのパーティーで、俺だけが金級だった………何もかもが自分には足りていない」
「そうだね」
「そんな自分が、『殴れる回復職』、あるいは『一人パーティー』、『孤高の女勇者』の仲間で構わないのか?」
そんなの、当たり前じゃないか。
「いやその前にさ、『殴れる回復職』はわかるけど、『一人パーティー』とか『孤高の女勇者』とかぜんぜん知らないんだけど………っ!?」
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