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楽しくて、つまらない食事
「これから飯を準備するから、しっかりと席に座っとけー」
『はーい』
鯛道は持ち帰った食料――固いパンと余り物や見目のよくなかった野菜を袋から取り出して、木製テーブルの上に広げた。
それでも満腹になれるほど食べ物はなく、子供たちの残念そうな表情が鯛道の心を抉る。
「……ちょっと待ってろよ」
鯛道は食事に一手間加えるため、台所で火を点けて鍋に野菜をつぎ込む。それから水袋の水を注いだ。
「あとは……これだな」
ただでさえ、このスラム街では手に入らない塩をひとつまみ、鍋に放り入れる。しばらくの間、コトコトと煮込んで野菜の水分が滲み出てきたところで火を消した。
「おっし、できたぞー! そっちに持ってくから、皆手伝えー」
鯛道の一声に皆は席を立って、行動を始める。そんな中、猫雅は何をすればいいのか――何をしてよいのか、迷った。
「……ほら、猫雅も手伝って」
「ああ」
桧綺に渡された木のフォークと皿をいくつか、テーブルへ運んでいく。鯛道もあわせて五人分の食器なので、そう時間はかからずに運び終える。
「んじゃあ、食べよう!」
鯛道は椅子に座ると、両手の平と平を合わせた。
「鯛道……それは?」
「ああ、言い忘れてたな。俺の故郷だと食事の前にはこうやって、食べ物を作ってくれた人に感謝してから食べるんだ」
「じゃあ、鯛道に感謝するんだな……。鯛道、ありがとう」
猫雅も倣って手を合わせて、感謝の言葉を述べる。鯛道は首を横に振って、
「違う違う、この食事じゃなくてだな……生産してくれた人たちに感謝するんだ。いいな?」
「なるほど、生産者に感謝……!」
猫雅は二度、頷くと皆の顔をまわし見た。皆そろって、貧しい境遇にも関わらず笑顔だ。だから自然と猫雅の頬も緩む。
(この人たちは、全く絶望なんてしてないんだな……!)
同時に鯛道の言葉を思い出しながら、その意味とともに固いパンと野菜スープを咀嚼した。
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