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言葉はいつも想いに届かない。
今年初めての雪が降った。
去年も、新年になってからもまだ降らず。
一月七日、今日になるまで、雪は降らなかった。
雪が降っている事に気が付いて、それを写真に撮って贈ろうと思い。
シャワーから出たばかりで服も来ていなかった自分は、服を着て、外に出る準備をしている間に、もう雪は降らなくなっていた。雪は止んでいた。
こんな時は大抵そうだ。
こんな時は、いつもそうだ。
いつだって、大切な時は、いつだってそうだった。
これから外に出ていこうと思う。
大切なものを失った僕らは、
これからどこへ出掛けようか。
「なくなっていた僕ら」は今からまたどこかへ出掛けようとしている。
眠れない理由をいくつか抱えて、憂鬱な朝を迎える。
頭が痛いのは不安だから。悲しいのも、寂しいのも、不安だから。
解決しない、答えのない、堂々巡りの毎日。
「何の為に生きているんだろう」
「どうして生きているんだろう」
前に一歩踏み出す勇気や度胸(決断)が出来ずにいる僕らは、「曖昧」で「漠然」とした何かを期待して外に出る。
「これからどうしたら良いんだろう」
「どうしたら、幸せになれるんだろう」
「鳴り続ける電話」から「鳴らない電話」に変え。
振り返ると、いつも振り返っているばかりいる自分がいる。
無機質で生活感のない、布団と机とパソコンだけしかない、遮光カーテンで囲った暗い部屋から。返事も返ってこない空間に向けて「いってきます」と心の中で呟いて、外に出る。
「何してんだろう」
家賃の安いアパートを出て。家の前にある小学校を眺めて、警備員のおじさんに挨拶をして。急な坂道を下って、いつもの見慣れた商店街を抜けて、区間準急の止まる駅に着く。
ホームから眺める景色が好き。
イヤホンから大音量で音が流れているので周りの音はほとんど聞こえない。
駅の隣に、ホームに並行するように、マクドナルド、TSUTAYA、古いパチンコ屋があって、この3つの前あたりで電車を待つ事が多かった。
ここから次に来る電車を電光板で確認して、商店街の様子や人を見ると。
あの時は駅の外を知り合いや友達が歩いている姿を見たような気がする。
先輩がパチンコ屋に入って行ったり。夜になって帰ってくると、隣の中古ゲームショップにプレイステーションの本体をそのまま抱えて入っていくその先輩がいたり。
次の日はその先輩が後輩に居酒屋を奢る話を聞いて、その見ていた一連の話を先輩と後輩に話をすると全員で笑った。
「無茶苦茶な所が楽しいよな」
「それもこれも含めて一人暮らしって感じですよ」
家の近くに、いつの間にか仲良くなった「金をそこそこ持っている不思議なホームレス」のお爺さんがいて。
そのお爺さんを、居酒屋やパチンコ屋で見かける事があって、そんな時は立ち話をしていた。
どうでもいいような、中身も脈略も無い、世間話にもならない話。
ある日、足にギブスをして、杖が無いと歩けない状態になっていたので
「足、折ったんですか?」
と聞いたら、
「親指をこれしたんや」
と、自分の手で、自分の手の指を切るようなジェスチャーをした。
それを笑って聞いた僕は、電車までの待ち時間がかなりあったので、駅前にある古いタコ焼き屋で一パック200円という安いタコ焼きを2つ買って、二人で一緒に食べながら僕は電車を待った。
その翌週辺り、パチンコ屋に入ると、今度はそのお爺さんが自分の持っている大量のコインを誰も座っていない台に投げ入れて、僕を呼び、
「ここに座れ、これやるからな、な、あとはうまくやれよ」
と大音量の店内で僕の耳元で叫んで、親指を立てて、笑顔で店を出ていった。
そのパチンコ屋にはアルバイトで先輩が働いていて、その一連を見て、僕のところに来た。
「知り合い?それくれたの?どうすんの?」と聞かれたので、半笑いで、
「使いますよ」と応えて、そのお爺さんがくれた大量のメダルをその台に入れた。
それから数日して、深夜の駅前で友人と座って雑談をしていたら、ふと駅のホームと商店街との間のフェンス(柵)に杖だけが一本落ちてあった。
僕らは不思議に思い、そのままフェンスに手をかけて駅の中を見ると、深夜で誰も入れないはず駅の線路の上にもう一本が落ちていて、「どういう事やろうか」と、友達と笑った深夜を今でも覚えている。
今でも時々そのお爺さんの事を想い出す。元気に今でも生きているんだろうか。きっと僕の事は覚えていない。そこまで毎日会った訳でも無い、そこまで話もしていない。名前も知らないし、顔もはっきりとは覚えていない。
でももし会えるのなら、最後にちゃんと会ってみたい。
・・・・・・・・・・・・・
いつか僕らが住んでいた町に帰ることが出来たら、今までにお世話になった人や、声を掛けてくれた人たちや、想い出が僕の中ではある人たちと逢いたいといつもずっと想い続けている。
きっとその夢は、叶えようと思えばかなえられる夢ではあるのだけど。
あれから何年も経っているのに叶えようとした事が無い。
いつかいつか、またいつか。いつかまた。いつか必ずまた逢えると信じている。
僕らの雪も「やんで」いる。
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