ユートピア

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 合計3000人のリストをドイツのナチス本部に送った。  しばらくすると、Goの合図と共に小包が送られてきた。中には得体の知れぬ小瓶とガスマスクが二つ。ナチスフランス支部のピエールとアンナはすぐに全てを察した。  今大戦の特徴は、サイバー攻撃と生物兵器の投入である。  二人はターゲットの3000人に、一斉に虚偽の情報を与えた。ある者にはスーパーの福引き、別の者にはネット上の懸賞に当選したことにして、マリーアントワネット記念ホールで行われる歴史研究家ピエールの講演に招待した。  携帯電話に搭載されたAI機能によって、人々の趣味や嗜好、生活スタイルはほぼ筒抜けである。AIはそれぞれのターゲットに見合ったーー つまり虚偽の情報ではないとターゲットに信じ込ませるだけの信憑性の高い ーー方法を自ら選び出し、招待状を作成した。  娯楽の少ない戦時下である。3000人の招待客のうち2000人もが出席したことは、ある意味で当然とも言える。  しかも講演のテーマが「血塗られたフランスの歴史 拷問と処刑」なのだから、好戦的で野蛮な彼らが飛び付かない筈がない。 「最後の救いとして退出路を確保していたのに、結局誰も出ていかなかった。処刑具に拷問具、こんな気持ちの悪いものを見せられて、彼らは気分を悪くするどころかむしろ嬉々として私の説明に聞き入った。ここにいる人たちはみな野蛮だった。だから社会から排除されるべきなんだ」  ピエールは当然のように言い放った。
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