ピエール

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 どうやらここは、ヴェルサイユ宮殿の庭園にある離宮の一つ、小トリアノン宮殿を模して造られたホールらしい。  18世紀、過剰な装飾に対する反動として起こった新古典主義建築を取り入れた建物で、外から見ると正方形をしている。しかし内装はと言うと、白塗りの壁に大聖堂のように丸みを帯びた天井、壁には大きな金縁の鏡が据えられていて、いたる所にごてごてとした意味不明の豪奢な装飾が施されている。  ロココ様式をふんだんに取り入れた派手な造りだ。ピエールがそう思いながら天井を眺めていると、アンナがすかさず口を開いた。 「ここはマリーアントワネット記念ホールと呼ばれています。普段は学会や講演会のほか、バレエや演劇、オペラなども開演されることのある、防音性・気密性ともに非常に優れた講堂です。メインホールの最大収容人数は2500人。本日はそのうち、おおよそ2000の席が埋まっております」  ピエールがうなずくのを確認して、更に説明を続ける。 「本日の講演は15時より2時間を予定しております。なお、この寒さのせいで夕方頃から、セーヌ川より立ち登る霧が周辺を覆い尽くす可能性が濃厚です。加えてこのような悪天候、つまり……」 「ああ、きっちり時間通りに終わらせるとも」  話しを遮られたアンナは、だがしかし、それを聞くなり口元を綻ばせた。  にっこり微笑んだままハイヒールの踵を打ち鳴らし、くるりときびすを返す。 「さあ先生、ご案内いたします。こちらへどうぞ」  ピエールに先立ち、颯爽と奥の通路へ進んだ。
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