血塗られたフランスの歴史

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 暗闇に浮かぶ巨大スクリーンに、見慣れた荒縄が映った。どんな仰々しい処刑具が現れるのかと固唾をのんで見守っていた人々から、うっすらと笑い声が漏れた。  ピエールは青白い顔を綻ばせもせずに、再びポケットに手を突っ込んだ。 「たかだか縄だとは思わないでいただきたい。古代より行われてきた絞首刑は、自死に殺人にと、現代ですらその利用者が絶えない人気の掃除道具です。古く有名なのはアレシアの戦いでしょうか。紀元前46年、カエサルに敗北したウェルキンゲトリクスは、戦勝パレードに引き出された後、群衆の前で絞首刑に処せられました。 駆け足でいきましょう、続いてはこちら」  次に画面に映ったのは、牛、犬、猫、馬といった愛らしき動物たちだ。客席にどっと笑いが起こった。 「おっと、生物兵器をなめちゃいけません。生き物を使った処刑や拷問も、荒縄と同じくらい古くから行われてきたのです。例えばハツカネズミを使った拷問。やり方は、まず底のない鉄籠に何匹ものネズミを入れ、仰向けに縛り付けられた罪人の腹の上にくくりつけます。その上から火を焚くと、苦しみから逃れようとするネズミたちによって罪人は身体を食い破られ、内臓にまでもぐり込まれるというわけです。とりわけ有名な動物処刑の例は、ローマ帝国のコロセウムで繰り広げられたライオンやトラ、オオカミ、クマなどの猛獣を使った処刑法でしょう。それは動物の餌食になるといった意味でも、人間を最も卑しめた屈辱的な刑でした。
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