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私たちはこうして何度も何度も隠れてデートを重ねる一方で、未だ手すら握らないプラトニックな関係を続けている。お互いに相手を古き良き友人として振る舞いながらも、それだけでは済まされない感情を抱いている事も心の奥底では理解している。
私たちの気持ちを押しとどめる堤防は既に危険水位を大きく超えていて、どちらかが今以上の関係を求めた途端に、呆気なく氾濫してしまうだろう。
そうしてとめどなく溢れ出した想いは、周囲まで巻き込んで甚大な被害を及ぼしてしまうだろう。
ずっとそう覚悟し、怯え続けてきたのだ。
しかし――
「嘘だよ」
私が答えるよりも早く、彼は言った。
「芳美ちゃんにそんなつもりがないって事は、僕が一番よく知ってるし」
「私、別に……」
「たとえ僕を受け入れたとしても」
私の言葉を遮り、彼は続ける。
「それで終わりにするつもりだ。そうだろう?」
……ぐうの寝も出なかった。
このままずるずるとこの曖昧な状況を続けるぐらいなら、いっそ一度だけでも関係を結んでしまい、それを最後に終わりにしよう。
そんな私の浅はかな考えは、全て彼にお見通しだった。
「芳美ちゃんはいつまで経っても、僕を昔のように名前で呼んでくれないしね。僕はずっと待ってたんだよ。僕の事を晋ちゃん、って昔みたいに呼んでくれるのを」
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