母親

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 山口さんの奥さんは、近所でも有名な人だ。  引っ越して来てすぐ、お隣の奥さんに「細かい人なんで、気を付けた方がいいですよ」と忠告された。以前住んでいた団地にも似たような人がいたし、どこにでも口うるさい人はいるものだと軽く考えていたら、最初のゴミ出しの日から洗礼を受けた。 「こんな縛り方じゃあ収集の時にほどけて中身が飛び出しちゃうじゃない! それにこれ! プラスチックじゃないの! どうして燃えるゴミにプラスチックを混ぜるんですか?」  どこまで細かくチェックしたものか、子どものお弁当に使ったプラスチック製の楊枝が混ざっていただけで、山口さんの奥さんにこんこんと説教を食らった。  以後もゴミ捨ての日の度に重箱の隅をつつくような駄目出しは続き、最近ようやく何も言われなくなってきたと思ったのに……。 「この間、役場で循環型社会に関する講演会に出席したばかりだから、刺激を受けちゃったのかもしれないね」 「そんな言い方って……自分の奥さんでしょうに」 「戸籍上の話だよ。僕はあの怪獣がこれ以上他の人に迷惑をかけないよう、預かっているだけだからね」  あっけらかんと言う彼に表面上は笑い返しつつも、心の中にはもやっとした想いがこみ上げる。  ――だったら別れればいいのに。  そう言ってやりたい気持ちを、ごくんと飲み込んだ。
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