母親

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 近所でも有名な山口さんの奥さんの夫が、私の同級生の山口さんと同一人物であると知ったのは引っ越して来てからだいぶ経った後の事だ。  持ち回りで会計なる重要な役割を仰せつかった私は、実務に関しては毎年副理事の山口さんがほとんどやっているから聞いてみるといいよ、という会長の助言を受けておっかなびっくり山口さんのお宅を訪ねた。  あの猛獣のような奥さんをパートナーに持つ人なのだから、どんな屈強な猛獣使いなんだろうかと恐ろしい想像を膨らませていた私の前に現れたのは、同じ研究室で長い時間を共に過ごした私が良く知る同級生の山口さんだった、というオチである。 「へぇー、あの芳美ちゃんが結婚して二人も子どもがいるなんて。信じられないな。幸せにやってるんだね」 「そんな事ないでしょう? もうすっかりおばさんよ。あなただってこんなに大きな家に住んで、ずいぶん出世したのね」 「いやぁ、とんでもない。うちの家内、見ただろ? 昔はまだマシだったんだけどね。政略結婚なんてするんじゃなかったって、後悔しきりだよ」  思い出話に花を咲かせる中、彼が口にした言葉に私は絶句した。
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