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車は高速道路に乗り、小一時間かけて海沿いの町へと着いた。
太平洋沿いに延びる国道をさらに走り続け、途中で見つけた小さな喫茶店でランチを食べた。
「こういう店って意外と当たりなんだよね」
という彼の言葉にほだされてウキウキしながら入ってみたところ、レトロな風合いの純喫茶に見えたその店は、ただの寂れたオンボロ喫茶だった。
隅に埃がたまったカーペット敷きの店内で、茹で置きした十割蕎麦みたいにぼそぼそしたパスタを食べ、インスタントコーヒーを二倍に濃くしたような苦いだけのコーヒーを飲んだ。
「失敗したね。相変わらず僕には見る目がない」
「そんな事ないわよ。良い教訓になったし、土産話にもなるじゃない。美味しい店よりも不味い店の話の方がみんな喜んで聞いてくれるわ」
バツが悪そうに謝った彼は、私が言うとぱっと顔を輝かせた。
「芳美ちゃんのそういう所、いいよね。うちの家内だったら、テーブルひっくり返して大騒ぎしてるところだったよ」
山口さんの奥さんならやりかねないと、私も笑った。
この喫茶店で唯一良かったのは、店からちょっと歩けば海に続いている点だった。
駐車場に車を置かせてもらったまま、砂浜に出た。
パンプスの横から砂が入ってきそうで恐る恐る歩く私をよそに、彼は「早く早く」と子どものようにはしゃぐ。本当に、私といる時の彼は大学生に戻ったみたいだ。
「よく私が海が好きだなんて知ってたわね」
私が言うと、彼はぎょっとしたように足を止めた。
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