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「聞いてたからね。よく行くんだって。だから覚えてる。いつか来たいと思ってたんだ。羨ましかったし」
途切れ途切れに彼の口から飛び出した最後の言葉に、ドクンと胸が跳ねた。
大学時代、私が交際していたのは、同じ研究室で彼の親友でもある男の子だった。
きっと何気ない気持ちで、私たちの付き合いを彼に伝えていたのだろう。彼は言葉や表情に出さずとも、羨望の想いでそれを聞いていたのだ。
「……でも、今までだって来る機会あったでしょ? デートで海なんて、定番みたいなものだし」
「それじゃ違うじゃない」
「何が?」
「……人が」
彼はつぶやくように言って、背中を向けてしまった。
思い違いに気づき、あ、と声が出てしまう。
彼が羨ましかったのは、海でデートという行為そのものではなかったのだ。
つまるところそれは、当時から彼もまた、私を――そう思い当たった瞬間、全身がぼっと熱くなるのを感じた。
「……今日、話したい事があるって言っただろ?」
彼はおもむろに切り出した。
「このまま僕と、逃げない?」
来た。
ついに恐れていた時が来たと、身構えずにはいられなかった。
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