11人が本棚に入れています
本棚に追加
「まぁ、お前の言わんとする事は解ったけどな…俺は遠慮す…」
「樹さん、俺この人の所に行きたい」
「はあ?」
思いもよらないマモルの一言に言葉を失う。
「おっ、そうか!守も譲が気に入ったか?」
「いやいや、ちょっと待てよ。オカシイだろ」
「大丈夫だよ。譲さんもマモの事、きっと気に入るから」
乗り気になっている樹の腕の中からヨウタが追い討ちを掛ける。
「だからぁ、そういう事じゃなくて…」
思わず額を押さえて俯けた顔を再度上げた瞬間、期待と不安が入り混じった瞳が視界に飛び込んで来た。
そして……何故かその瞳に色気を感じてしまった。
「………うち、来るか?」
「……良いの?」
ゆっくりと腕を伸ばす。
マモルの顔に指先が触れる直前で止める。
「……俺の…飼い主の言いつけを守れるなら…来いよ…」
「…うんっ!」
満面の笑顔で抱き着いて来たマモルを、仰け反りながら受け止める。
「ありがとう!俺、すっごく嬉しい!!」
何とか体勢を元に戻すと、マモルの尻に尻尾が見えた。
…いや勿論、実際に尻尾が見えている訳じゃないけれど、ブンブンと千切れんばかりに振られている尻尾が、あたかも其処に生えている様な気がした。
「良かったね、マモ」
「良し!譲の気が変わらない内にさっさと荷物を纏めて譲の所へ行けよ、守」
「俺、譲さんの言う事何でも聞くから!」
俺の足元で居住まいを正し「よろしくお願いします」とペコリとお辞儀するマモルを、不覚にも可愛いと思った。
あの日からずっと、守は俺の部屋で一緒に暮らしている。
飼い主とペットとしてスタートした筈の守との生活は、今や少し様相を変えた。
俺を「譲さん」と呼んでいた少し風変わりな大型犬は、いつ頃からか、俺を「譲」と呼ぶ同居人となった。
今でも時々、千切れんばかりに振られている尻尾が見える気がする時があるけど……でも、可愛いのだから仕方ない。
最初のコメントを投稿しよう!