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凪子の物語④風は時を嫌わない
鳥の様になりたい。もっと自由にはばたきたい。
天使のまなざしが陳腐な言葉を投げかけてきた。
「風は時を嫌わない」
◇ ◇ ◇
数か月後、とある戦場に凪子の姿があった。
被征服者を強制徴用し、過労自殺すらも許さない革新人民共和国大同盟。
それを許さない太陽圏哨戒軍との闘いは熾烈を極めていた、
死臭と硝煙にまみれ、膠着した最前線にチンロンの娘が命を吹き込む。
「ねぇ、あなた。小隊を右の尾根に進めてちょうだい」
翡翠タブレット端末を示すと、女性兵士が顔を曇らせた。
「お言葉ですが、この状況だと部隊に危険が……」
すると、凪子は彼女に魔法をかけた。
『ねぇ、天使を信じてる?
あなたに翼が舞い降りるの。
ワン、ツー、スリーで奇跡をおこすわ!
』
そういうと、指で虚空をなぞる。すぐ向こうの塹壕が蛍光色に染まった。
「こ……、これは?!」
「いいから、中尉。さっさと行きなさい!」
「イエス。ユアハイネス!」
向かい風が凪子の髪をそよぐ。
「あたしが来たからには順風満帆」
大尉の襟章が輝かしい。彼女の尖った耳には高級将校の宝珠が輝いている。崑崙青龍市時代にはなかったものだ。
ドレスの裾から見え隠れする下履には、海王星を革新人民共和国大同盟から解放した功労賞が記されている。
小隊員と入れ替わりにあの天使がやってきた。直立姿勢で敬礼する。
「ご、ご挨拶が遅れました。海燕 凪子特等大尉であります」
たどたどしい言葉遣いに初々しさが見え隠れする。
上官は笑みを浮かべて言った。
「自由の翼は手に入りましたか?」
「は、はい。それ分かち合うために志願したのであります」
凪子はおどおどしながら答えた。
「随分と成長したじゃない。管理社会では、自由闊達など考えも及ばなかったでしょう?」
「そのように刷り込まれました。義理を守るためには自然の欲情を抑え込まねばならぬので」
「そこから義務と人情との衝突が生まれ、自由の渇望感につながるんです」
「わたしは神に抱かれたら自由になれると思い……」
「いいえ。神は自由をお与えになるのです。天使はその担い手です。貴女の翼には義理人情の葛藤が描かれている」
天使が空を見上げると、巨大な航空戦艦が可変翼を翻した。
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