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「先生っ起きて下さい!」
「んん……あと5分……」
「そーいってもう10分以上経ってますっ俺授業遅れちゃいますよ!」
「んー…うるせぇなぁ……ほらお前もおいで。」
にゅっと伸びてきた両腕に強引にベッドに引き込まれ、パニックになっている間にしっかりとホールドされてしまった。
「ぅわっ」
「はいはい、ミサキちゃんも一緒に寝ましょうね〜」
小さな子供を寝かしつけるように背中をトントンされる。
「先生…っ」
必死の抵抗むなしく、ぐぅぐぅと気持ち良さそうないびきが頭の上から聞こえてきた。
安らかな寝息、ぴったりとくっついた胸から聞こえてくる心臓の音。保健室の清潔なベッドはふかふかで、あたたかい。
万年二日酔いの駄目な大人は、それでも確かに俺の大好きな人で、こんな風に抱きしめられたら幸せだと思わずにはいられない。
「酒くさ……。」
先生のワイシャツに顔を埋めていると、抗えない睡魔が襲ってきた。このまま眠ったら気持ちがいいだろうな……
……。
「だーーーっ!!」
ガツンッッ
「痛っっっって!!」
「駄目!授業!行きます!先生、起きましたね??俺、行きますからね!」
「お前…っ石頭、、顎痛ぇぇ」
ベッドから飛び降りて、すっかりくしゃくしゃになってしまった制服を整える。
「真面目だなぁ。」
無精髭の生えた顎をさすり、あくびをしながら先生が言った。
「先生が不真面目すぎるんですよっ」
まったくもう。
パンパンッとブレザーの埃を払っていると、ふと先生の視線に気がついた。
?
「先生?」
先生は
「寝癖。」と、俺の髪を撫で付ける。
顔が赤くなってるの、バレてないといいけど。
おとなしく、されるがままになっていると
突然
「うりゃっ!」と大きな両手で頭をくしゃくしゃにされてしまった。
「ちょっ先生!何するんですかっっ!」
「あっははははっひでーもじゃもじゃ、鳥の巣みてーははっ」
「先生!」
「あーおかし。なぁ、そんなことよりミサキ、時間いいの?」
「え??あ!やばい!もう!遅れたら先生のせいですからねっっ」
「はいはい。いってらっしゃーい。」
「先生もせっかく起こしたんですから会議遅れないように!」
「はぁい。」
依然ベッドの上で胡座をかいたままでほとんどあくびのような返事だ。
でももう知らない、俺は起こしたぞ。
バタバタと扉を開ける直前、大事な用件を聞くのを忘れていたことに気がついた。
「先生。」
「んぁ?」
「今日の晩御飯、何がいいですか?」
「んー?……サバ味噌♡」
「了解です。」
俺はビシッと親指を立て、保健室を後にした。
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