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「ちょっと前にさ、お前、警視庁にいたよな」
「ちょっと前っていうか、もう10年以上前だけどな」
「マジか。時の流れがおかしくなってる」
「それな」
ここまではスムーズに話せそうだと思ったが、三枝の相づちの後、何故かつまずいてしまい沈黙が流れた
「仕事関係?いまさら週刊誌のネタってわけでもないだろ?」
三枝のアシストが有り難かった
「ゴシップネタにしたくないからお前に相談するんだ」
「何のネタ?」
「乃木篤也」
三枝の眼光が鋭くなった
「…ずいぶん懐かしい名前だな」
「実は俺の週刊誌時代のツレでね」
三枝がハハハとわざとらしく笑った
「まさかそこが繋がっていたとはな。まあ、それを知ったからって、もう終わった事件だ。いまさら何を蒸し返す?」
「うちの局が特番作ると息巻いてる」
「罪を償った一般人だぞ?!」
三枝がカウンターに拳を打ち付けた
周りの客が何事かと二人を見た
店員がやって来そうだったので、数人は先制して頭を下げた
「落ち着けって。俺のツレとわかって欲が湧いたんだよ」
「マスゴミめ」
「耳が痛いな。もう慣れたけど」
三枝が肘を伸ばして深いため息をついた
「お前にそういうのは向いてないよ。わかってんだろ?」
「とはいえ、英を育てなきゃなんないからなあ。いまの部署は条件悪くないんだけどな、圧がすごいよ」
「お前が毅然とした態度で断るしかないだろ」
「やっぱりそうだよな」
三枝なら名案を出してくれるだろうなどとは端から思っていない
「俺が知ってるお前は、ダチを売るようなヤツじゃない。そんなことしたら理科子さんが泣くぞ」
三枝の一言は重い
わかっている
答えは決まっている
乃木を売るなんてあり得ない
だったら乃木に会わなくていいのかと言われたらそれは違う気もした
「乃木に会うだけ会うってのはどう思う?」
「居場所を知ってるのか?」
返事はしない
それだけで三枝は察してくれる
「お前の同僚に後をつけられたら終わりだぞ」
「だから抑止力」
数人は串の先で三枝を指した
「公権力で牽制するのか?そうまでして会いたいのか?」
「俺も当時は、乃木の無実を信じてたからな」
升に残った日本酒を猪口に移して飲み干した
「18年経って蒸し返されるなら、いっそ無実を証明しようってか?」
「そこまで高尚な理由じゃないよ」
「わかった。プライベートでよければ付き合うよ。いつ行ける?」
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