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(そのままこっち来るなよ、バカ!)
樹が、若手社員たちを引き連れて、数人のいる休憩スペースにやってきた
「お待たせしました」
「お、おう」
樹と数人のやりとりを見ていた女性の一人が、
「お知り合いですか?ミアンナの方…ではないですよね?」
艶のある、茶色い髪をハーフアップにまとめた美人だ
新卒ではないにしろ、2、3年目の若手だろう
ファッション業界は華やかな人間が多い、と樹と女性が並んだ姿を眺めて感心した
「うちのご近所さん。仕事は…マスコミ?でいいの?」
「ああ、今日は代打で取材に来たけど、いつもは営業補佐をやってます」
はぁ~と一同が感心したような声を上げた
今のでわかってもらえたかは疑問だ
「それじゃあ、お昼のお誘いありがとね」
樹は若手たちとの会話をぶった切るように手を振った
若手たちが名残惜しそうに去っていく姿に心を痛めたのは数人だ
「いいの?」
「仕事中に外で数人さんに会えるなんて新鮮ですから、こっちが優先です」
いつもはクールなくせに、言うときは言う
数人は席を立ち、樹と並び立って歩いた
会場内に飲食店はないため、外に出る
「休憩時間は?」
「午後のショーが2時からなので、それまでは大丈夫です。正直あまりやることなくて」
「取材対応とかあるんだろ?」
「事前にインタビュー受けてる分もあるので…」
「読ませて」
「嫌です」
二人が連れだって歩く様子を、振り返って見ていた黛が
「かっこいい人だね」
と呟いた
「ユカリ、ああいう人がタイプなんだっけ?わたしは南出さんのがタイプ。超美形じゃん」
「うん。私は草食っぽい渋いオジサンが好き」
黛と石田の会話に、匠は全神経を集中していた
同性に対して、素直にかっこいいと感じたのは樹が初めてだった
というより一目惚れだ
友人がもしそんなこと言ったら、嫌悪していたかもしれない
だが、自分自身に起きたことは素直に認めざるを得ない
匠は、自分の心のすべてが樹に持っていかれたと思った
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