5月21日(木) 一目惚れ

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(そのままこっち来るなよ、バカ!) 樹が、若手社員たちを引き連れて、数人のいる休憩スペースにやってきた 「お待たせしました」 「お、おう」 樹と数人のやりとりを見ていた女性の一人が、 「お知り合いですか?ミアンナの方…ではないですよね?」 艶のある、茶色い髪をハーフアップにまとめた美人だ 新卒ではないにしろ、2、3年目の若手だろう ファッション業界は華やかな人間が多い、と樹と女性が並んだ姿を眺めて感心した 「うちのご近所さん。仕事は…マスコミ?でいいの?」 「ああ、今日は代打で取材に来たけど、いつもは営業補佐をやってます」 はぁ~と一同が感心したような声を上げた 今のでわかってもらえたかは疑問だ 「それじゃあ、お昼のお誘いありがとね」 樹は若手たちとの会話をぶった切るように手を振った 若手たちが名残惜しそうに去っていく姿に心を痛めたのは数人だ 「いいの?」 「仕事中に外で数人さんに会えるなんて新鮮ですから、こっちが優先です」 いつもはクールなくせに、言うときは言う 数人は席を立ち、樹と並び立って歩いた 会場内に飲食店はないため、外に出る 「休憩時間は?」 「午後のショーが2時からなので、それまでは大丈夫です。正直あまりやることなくて」 「取材対応とかあるんだろ?」 「事前にインタビュー受けてる分もあるので…」 「読ませて」 「嫌です」 二人が連れだって歩く様子を、振り返って見ていた黛が 「かっこいい人だね」 と呟いた 「ユカリ、ああいう人がタイプなんだっけ?わたしは南出さんのがタイプ。超美形じゃん」 「うん。私は草食っぽい渋いオジサンが好き」 黛と石田の会話に、匠は全神経を集中していた 同性に対して、素直にかっこいいと感じたのは樹が初めてだった というより一目惚れだ 友人がもしそんなこと言ったら、嫌悪していたかもしれない だが、自分自身に起きたことは素直に認めざるを得ない 匠は、自分の心のすべてが樹に持っていかれたと思った
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