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5月24日(日) 置いてけぼり
英も峰希も、中2だから、1日くらい留守番できる歳だ
しかし、数人は英を一人にすることはない
必ず数人に頼んでいくか、預り型の塾などに行かせる
いまだ、理科子を失ったときの傷が癒えていないのだ
樹は無理に癒さなくてもいいと思うから、英を預かるのは構わない
むしろ大歓迎だ
英は小学4年生から始めた剣道でめきめきと才能を開花させ、中学は剣道の特待生としていまの私立中学に推薦入学している
数人と歩んだ6年間は、そのまま英と歩んだ6年間でもある
だから英は我が子のようにかわいい
ただー
※※※※※※※※※※
「峰希、雑誌、すっげえいい写真あったじゃん」
「え?どれ?」
【峰希!】
別々の中学に行くようになってから、二人の関係に変化があったように思う
やけに親密というか、お互いを意識してかっこつけあってるっぽいというかー
数人はおやつのチョコブラウニーを作りながら二人の様子を伺った
チョコブラウニーが焼き上がり声をかけると、峰希が「ごめん!パパ!友達から呼び出し!英、行こう」と立ち上がった
「俺も?」
英は突然の誘いに戸惑っている
【そうだそうだ!英を連れてく必要があるのか?!】
「だって英がいると、盛り上がるんだもん」
「は?」
「うちの学校でも有名なの。セタショーの北野くんって。こないだも県大会優勝したじゃんって」
「あー…」
英もまんざらでもない風に立ち上がった
それはそうだろう
大好きな峰希にそこまで言われたら
嵐のように二人が出ていってしまうと、家が急に静かになった
樹は言い知れぬ不安を抱いたまま、一人チョコブラウニーを食べた
※※※※※※※※※※
数人が帰ってきたのは夜中の12時を回った頃だった
静かな住宅街の道路に車が止まる音がした
リビングの窓から覗くと、数人がカーポートの門を閉めているところだった
英は夜9時を過ぎた頃に、自分から『明日も学校だし、家に帰って寝ます』と言った
その報告がてら、ダブルロックをもう一度開けて外に出ると、こちらに向かってくる数人と目があった
「悪かったな」
「英くんは家に帰ってるよ。明日は学校だからって」
「そうか」
「こんなに遅くなるなんて聞いてないけど」
つい責める口調になったしまった
しかし、数人はそれにすら気づいていないのか、
「うん、ちょっとな」
と、独り言のように呟くと、持っていた紙袋を樹に渡した
「礼はまたするから」
そう言って、明かりひとつついていない家に帰っていった
紙袋の中身は新茶と温泉まんじゅうだった
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