7月31日(金) 山奥の蕎麦屋

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7月31日(金) 山奥の蕎麦屋

夏休みに入った 渋谷の人気クラブによる麻薬取引摘発事件は、芸能人や政府要人を巻き込み、連日連夜世間を賑やかしたが、最近は下火になりつつあった 数人と樹は英と峰希(こどもたち)に予定を空けさせ、4人で伊豆長岡に一泊旅行に来た 乃木が働く蕎麦屋は、終日は特に混むから、金曜のランチに訪れたが、夏休みということもあって、店に入るまで30分くらい待たされた 峰希は日傘の下で「暑い」「焼けちゃう」「虫がいる」と文句を言っていたが、英に宥められるとピタッとやめた いつの間にか二人の関係にも変化があったように思う 以前は、英の方が峰希に夢中で、「峰ちゃん峰ちゃん」とまとわりついていたが、今は峰希の方が英の機嫌をとろうと躍起になっているようだ やっと北野たちの順番が来て、テーブル席に通されると、滝沢が、そば茶を持ってやって来た 「あ、北野さん、でしたっけ?」 「覚えていてくれたんですか?」 「あのあと、篤也くんに教えてもらったので」 滝沢は、話しやすく、おっとりとした女性だった こんな女性が、殺人を犯したかもしれないなんて、とても思えなかった 「もうすぐ昼の部が終わるので、食べ終わったらお待ちくださいね。篤也くんに言っておくので」 そう言って、注文を取ると、厨房に向かって「モリ2、ザル2」と叫んだ 蕎麦はすぐに運ばれてきた 英と峰希は一口すすると、「おいしい!」と笑顔になった 樹は黙って食べているが、顔は笑っている 「うまいなら、うまいって言えよ。ニヤついてないで」 数人が肘で樹を押した 「おいしいです。おかわりしたくらい」 「私も!」「俺も!」 峰希と英が続いた 三枝と来たときは、盗撮騒動で1枚しか食べれなかった数人も、おかわりを頼んだ やがて最後の客が出ていくと、乃木が暖簾をくぐって厨房から出てきた 「北野!よく来たな!」 乃木はすぐに英に気づいて、 「うわっ!君が英くん?もう大人じゃん」 と言った それから樹と峰希に視線を移した 「あ、紹介します。俺のパートナーの南出樹さんと、娘の峰希ちゃん」 樹と峰希が同時に頭を下げた そのシンクロ率を見て、やっぱり親子だなと思った 「パートナーって…ええっ?!お前って、そっちだっけ?!」 反応が、子供のようで、数人は思わず吹き出した 「元々はもちろん違うけど、こいつは別」 親指で樹を指差すと、乃木は「ほお~」と心底感心したようにうなずいた 「ま、でも元服役囚と殺人犯のカップルに比べれば普通だな」 乃木が、あまりに自然なトーンで言うから、聞き逃すところだった
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