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【最終話】7月31日(日) north&south
数人がハッと顔を上げたときには、乃木はすでに厨房の暖簾をくぐっていて、背中しか見えなかった
滝沢が会計にやってきた
「滝沢さん、ですよね?」
数人は思いきって声をかけてみた
「はい」
「いま、幸せですか?」
数人の問いに、滝沢の表情が曇った
「生きているだけで、わたしは幸せ者なんでしょうね」
そう言って静かに笑った
※※※※※※※※※※※※※
昼食後は伊豆長岡を観光して、早めに旅館にチェックインした
樹を巻き込んだお詫びにと数人が予約した旅館は、伊豆長岡でも屈指の高級旅館で、部屋は2間続きの、貸し切り露天風呂付きスイートルームだった
「お父さん、数人さんと二人きりで来たかったんでしょ?」
峰希がニヤニヤ笑いで耳打ちした
樹は、「うるさい」と言いながら、峰希が朝、鏡とにらめっこしてセットした髪をグシャグシャと撫でた
英と峰希が、宿の大浴場に行くと言うので、ついていこうとすると、「俺らゲームコーナー寄って遊んでくるから」と、冷たく言い放たれて、数人と樹は仕方なく、部屋の露天風呂に入ることにした
夏の暑い日でも、温かい温泉に入るとホッとする
数人は、とろりとした湯に肩まで沈むと、「はぁ~」と、大きなため息をついた
洗い場の樹が、
「おじさん臭い」
と笑った
「おじさんだもん」
「どうですかね。今回のことで、意外とおじさんでもないのかな?と見直しましたよ」
「珍しく褒めてくれるのね」
樹が数人の横に並んで浸かった
樹の肩が、湯気越しに白く輝いて見えるのは、幻覚だろうか
数人は目をこすった
いつ見ても、優和で、凛としていて、女神のような横顔だ
自分の彼氏とはとても思えない
匠が襲いたくなる気持ちもわかる
樹は、何回あんな目にあってきたのだろうか
数人は、そーっと樹の肩に腕を回した
「なんですか?」
「いや、守ってあげたいな、と思って…」
にやけ面のまま言ってしまい、我ながら決まらないな、と数人は思った
いつものように軽く交わされるかと思っていたが、このときは違った
樹が顔を真っ赤にして数人を見ていた
「え?!え?!」
あまりの意外な反応に、数人は回していた腕を外した
その瞬間、体勢を崩し、湯に沈みそうになった数人の腕を、樹がつかんで引き寄せた
「うわっ!」
「なんていう声を出してるんですか…早くしないと、二人が帰ってきちゃうでしょ?」
耳元でささやかれ、鼓動が早鐘のように打ち始めた
数人はその音を抑えるため、樹の胸に自分の胸を押し当てると、肩を掴んでキスをした
おわり
終わったー!久々に完結作品を出すことができました!
途中迷走してグダグダになったところもありますが、見切り発車にしてはよく書けたと思っております
樹×数人を気に入ってくださった方は、
【君は永遠の片思い】シリーズを是非ご一読ください
また、小室、三枝、乃木が出てくる
【メイドインライズ】【ボーンインライズ】も合わせてお読みいただければ嬉しいです
温泉でのイチャラブ話も、スター特典で書かせていただければな、と思っております。いましばらくお待ちください
それでは!
はなざんまい
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