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新生活のはじめ方
「最初は、はたきからね」
君が僕の部屋に持ち込んだ掃除道具。はたきもあると思わなかった。君の指示のまま、はたきを本棚や電灯のカバーにパタパタとかける。埃が舞って僕はちょっと咳き込む。
「そこまでパタパタさせなくていいから」
君は僕の宝物である小説たちを段ボールに次々と詰めていく。
「あのさ、あんまり荷物になるようなら、いくらかは処分しても……」
「何言ってんの?君の宝物なんでしょ?私は人が大切にしているようなものを処分するような人にはなりたくないの。ほらほら、きびきび動くの!」
カラーボックス三つにめいっぱい詰められた僕の文庫本たち。実家にはもっといっぱいの小説が僕の部屋で眠っている。わずか三年の一人暮らしで僕はカラーボックス三つがパンパンになるくらいの小説を集めた。すべて読了済みである。
職場の読書仲間は、図書館利用しなよとアドバイスをくれたが、コレクションするには買うべきなのだ。好きな作家を小説を集めたり、好きな出版社で小説を集めたり、表紙の色で集めたり、それを楽しむには買うのが一番なのだ。ハードカバーは高いから、文庫本であることがまだ可愛いはずだ。
僕は君の指示に従って、はたきが終わってから電灯のカバーやカラーボックスの上を水拭きする。
「本の他には何を持っていく?」
カラーボックスは小説を入れるために必要だ。洗濯機は新生活の部屋にあるから売ろうかな?でもテレビは二台あってもいいかな?テレビ用とゲーム用に。
「まぁ布団は必要だよね」
「あんまり荷物にしても……」
「遠慮なんかしないでね。新生活が始まって文句を言われて困るのは私だから」
確かに新生活の部屋は僕の一人暮らしのアパートより、はるかに広い。必要なものは大体揃っている。でもさ……。
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