第五話 懐刀、竜虎相搏

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第五話 懐刀、竜虎相搏

「そこまで!」 『死の天使』の訓練場にサバオトの号令が響く。それを聞いた鍛錬を行っていた隊員達は皆、その場にへたり込んだり仰向けになって空を仰いだ。 「15分の休憩の後、訓練を再開する。各自ちゃんと水分補給しとけよー!」 息も絶え絶えな隊員達から返答が返ってくる。 「大分安定してきたか」 気が付くと、サバオトの横にドミエルが立っていた。 「ああ。少なくとも低級悪魔とやり合わせても問題ないぐらいにはなってきてるな」 エラタオルが配るペットボトルの水をすごい勢いで飲み干す隊員達を見て、サバオトは言った。 「余程の事が起きない限り、しばらくは大丈夫だろ」 「そうか」 「そっちは? まあドミエルんとこなら大丈夫なんだろうけど」 ドミエルの淡々とした返答に、サバオトはそちらを見て言った。 「問題ない。私の目が正しければ、虎の威を借る狐は居ない筈だ」 「お前んとこは精神面もだからなぁ……まあ、程々にしておけよ?」 「分かっている」 話していると、水の入ったペットボトルを入れたカートを押しながらエラタオルが2人の方へ近づいてきた。 「2人とも、お疲れ様ですわ」 そう言いながら、2人にペットボトルを差し出す。 「おう、エラタオルもおつかれ!」 「射撃部隊の様子はどうだ」 2人ともペットボトルを受け取り、サバオトは礼を言うと、早速蓋を開けて水を飲み始めた。一方、ドミエルは蓋を開ける前に業務的な質問をエラタオルに投げかける。 「上々ですわよ。それぞれ自分に合った距離も把握してきてますし、最低限の近接戦闘も出来てきてますわ」 「そうか」 ドミエルはそれだけ答えると蓋を開け、水を飲み始めた。サバオトのペットボトルは既に残りは3分の1にまで減っている。 「そういや、2人とも今日何回『襲撃』された? 俺15回もあったんだけど」 「私は銃撃が20回、近距離が3回でしたわ」 「近接攻撃が3回、能力による攻撃が16回」 「あー、結構増えてんなあ」 襲撃とは、『死の天使』の隊員にはなんと訓練中にドミエル、サバオト、エラタオルに襲撃や不意打ち等を仕掛けて良いというものがある。  個人でも複数人で行ってもよしとされ、もし一撃でも与える事に成功すればナンバーの向上や待遇の改善などといった、所謂ボーナスを得られるのだ。最も、の話なのだが。 「うーん、どうするよ?」 「どうすると言われましても、ねぇ……」 襲撃が多いのは、裏を返せば舐められている可能性にも繋がる。3人は、それを問題と考えていた。 「そういやさ、最近俺ら手合わせしてないよな?」 「ああ」 「なら、久しぶりにやんねえ? それぞれの力を見せれば、あいつらもむやみやたらに襲撃してくんのは控えるだろ」 サバオトの提案に、2人はふむ、と考える。 「そうですわね……ここ最近やってませんし、私は賛成ですわ」 「私としては寧ろ、暫く強者と呼べる者を相手にしていなかったからな。このままでは鈍る」 2人の返答を聞き、サバオトは笑って自分の掌に拳を当てた。 「うっし、決まりだ! で、いつにするよ? 俺はいつでもいいんだけど」 「明後日はどうです? 私としてはコンディションだけじゃなく銃のメンテナンス等もしておきたいですし」 「異論は無い」 「よし決定! 明後日かー、こりゃ楽しみになってきたぜ!」 サバオトとエラタオルは余程楽しみなのか、無邪気に笑っている。 「じゃあ後であいつらにも言っとかないとな。明後日は見学だって」
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