第四話 罪人は静かに笑う

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2000年代、日本関西某所。 「ほーん、そんな事がね……」 器用にお好み焼きをひっくり返しながらサバオトは答えた。 「……悔しいですよ、本当は。でも相手が相手だから言い返せないし……」 「正直、任務よりキツいです。これだったら牢屋の中の方がマシだったんじゃないかって思うぐらいには」 烏龍茶を飲みながらエムグとクロハの言葉を聞き、俯くリールとホロウを見てサバオトは呟いた。 「あー、まあ牢屋の中のこと知らなかったらそうも言うよな」 「え?」 サバオトは周りを少し見て、小声で話し始めた。 「お前らさ、檻ん中ってどうなってるか知ってるか?」 「えーと……よく聞く牢屋みたいなところで、あと極寒だとか聞きますけど」 ホロウの言葉にサバオトは首を横に振り、烏龍茶のジョッキを置いた。 「あそこはな、地獄よりも地獄だぜ」 「え?」 お好み焼きを切り分け、それぞれの皿に載せながら言う。 「極寒なのは合ってる。牢屋とか牢獄とか言うけどな、正しくは檻だ。あそこに入れられた奴はみんな鎖に裸で繋がれんだよ。人間、天使、悪魔。罪人としてあそこに入れられる奴だったら元の立場とか全部関係ねぇ」 「それって」 「熾天使だろうが魔王だろうが関係無しだ。全員平等に最低の扱いされる」 その言葉にホロウは驚いて声を上げる。 「そんな、そういう風には」 「ちょ、バカ声デカイって!」 その声をサバオトは慌てて遮った。ため息をつき新しくお好み焼きを焼き始めながら言葉を続ける。 「……牢獄ん中は一定以上、もしくは特定の立場の奴にしか伝えられねえんだ。神聖な天界らしくねえから、とかなんとかで」 「うわ……」 「で、それをバラした奴にはの罰、聞いたやつはその事を忘れるよう厳しく命じられんだ」 「…………」 「で、檻ん中いる時だけどな。分かりやすく言えば……まあ、されるがままだよ」 「え……」 「暴力、罵倒、酷けりゃ……まあ、そういう事だってされる。身体の性別関係なしにな」 4人はその事実に絶句する。聞かされていたこととは全く違う。極寒の牢屋の中で罪を悔い改めるのだと。そして魂を清めるのだと。それが。 「……こんなのって……」 「……牢獄入んなくて、良かったかもな」 ホロウとエムグは呟く。もしあの時、あのまま牢獄に入れられていたら。考えただけでおぞましい。 「でさ、なんでサマエル様が死の天使として罪人とかからだけスカウトしてるか知ってるか?」 「え? えーと……同情、とか?」 「まあ、大体合ってるな」 サバオトの返答を聞き、リールは何かを察する。 「もしかして……」 「そ、サマエル様も一時期牢獄に入れられてた時期があったんだよ。めちゃくちゃ昔だけどな」 そう言いながらサバオトはお好み焼きをひっくり返した。 「そんときの事は話そうとしないけどさ、大体予想つくんだよな。牢獄に入れられるのがどんだけ酷いかがさ。……あの人の事だ、自分から見て小さな罪で地獄より酷いところに入れられるのは見てられないんじゃねえかな」 「…………」 唖然とする4人。それぞれの中で様々な感情や考えが入り交じる。 「だからさ、だいぶ話はそれちまったけど正直俺はお前らが牢獄に入れられなくてよかったって思ってる。お前らの罪は牢獄に入れるにしては軽すぎるからな」 そう言いながらサバオトは自身の皿にお好み焼き丸々1枚を載せた。 「ま、とりあえずだ。まずは食え。それで愚痴りたい事とりあえず言ってみろよ。今日は俺が奢るしさ」 「え……いいんすか?」 クロハの問いに、サバオトは笑ってみせた。 「おう! こーいうのも上司の役目ってやつだろ? 気にせず食えよ! あとそろそろ皿のやつ、冷めてると思うぞ?」 「え? あっ」 ホロウが慌てて一口食べると、動きを止めた。 「……冷めちゃって、ますね」 「あー、はは……ま、気にすんなよ。新しいの焼いてやるから、ちょっと待ってろ」 そう言って、サバオトはまた新しいのを焼き始める。 「飲みたいもんとかは自分で頼めよー。そこまでは面倒見ねぇからな俺」 「あ、じゃあ……」 約2時間後。 「――で、そいつらに小言言われたって?」 「そうなんすよ! でも言い返せないからどうしようもないし……」 「あ、エムさんも言われたん? 俺もそいつに言われたわ」 「奇遇やな、俺もだわ」 「あ、俺もです」 重かった雰囲気はある程度軽くなり、4人も言いたいことを言えるようになっていた。 「分かる、俺も昔ちょいちょい嫌味言われたよ。悪い意味で変わってねえんだなあいつら……」 すると、サバオトの端末が着信を告げた。 「わりぃ、ちょっとトイレ行って来るわ」 「あ、行ってらっしゃーい」 席を立ち、男性用トイレへ向かうサバオト。 「もしもし」 「サバオト、そちらはどうだ」 端末から聞こえる声の主はドミエルだった。 「んー、全員少しは気楽になったんじゃねえかな。あくまで俺の主観だけど。そっちは?」 「私の方のは終わった。エラタオルの方も完了している」 「順調じゃん」 「この件は元々サマエル様がやる予定だったものだからな。相応の重要度ではある筈だ。それに支障をきたすのであれば」 「容赦はしない」 ドミエルの言葉を遮るように、サバオトは言った。 「そうだ」 サバオトはため息をつきながら笑い、トイレの壁に寄りかかる。 「いっつも言ってるよな」 「当然だ。私に使命や任務を与えるのはサマエル様のみ。であれば、どのようなことであっても手を抜くつもりは無い。それはお前も同じの筈だが」 「そりゃあな」 そう言うと、サバオトは途端に神妙な顔をした。 「……だからって、以前みたいな事は二度とすんなよ。あの方を悲しませたくないならな」 「……分かっている」 壁に預けていた背中を離し、出入口へと向かう。 「んじゃ、そろそろ切るわ」 「ああ」 通話を切り、サバオトは席へと向かう。 「ただいまー」 「あ、サバオトさんおかえりなさい」 「お前ら何か頼んだか? この店唐揚げとかいいぞ」 「あ、それなら」 そう話していると、店員が大ライスを2杯運んできた。 「お待たせしましたー、大ライス2つになりますー」 「お、来たな」 来た大ライスを自分の前に置くリールとクロハ。それを見てきょとんとするサバオト。 「……お前らさ」 「ん?」 「はい?」 「粉物と米いけるなら俺の分も頼んどいてくれよー!」
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