第四話 罪人は静かに笑う

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次の日。天界、『死の天使』の施設。4人はサマエルに報告に来ていた。勿論、サマエルの隣にはドミエルが立っている。 「で、捕縛予定だった堕天使は自ら天界に投降、現在裁定中、と」 「はい」 地上で言えば朝の頃、4人が捕縛する予定だった堕天使は自ら天界へと自首したのだ。 「そうか。まあ結果的には全ての任務をこなしてくれた事になるな。よくやった」 「え、あ、はい」 「……さて。それじゃあ早速だがそれぞれの欲しいものを2つ、準備してやる」 その言葉に4人は驚く。 「え!?」 「どうした? なにか不服か?」 「あ、いや、そうじゃなくて……」 「あの、捕縛はあれ、俺らがやったというよりも……」 「結果は結果だ。私は『無事に終わらせ、尚且つ期限以内の達成』を条件としたんだ。そして過程はどうあれ、お前達はそれを完遂したんだ。よくやった」 てっきり叶えられるのは1つだと思っていた4人は唖然とする。 「さて、直接言うのは気まずいような事を頼みたいのもいるだろう。紙とペンを貸すから、それぞれ2つ書いて寄越せ」 サマエルがそう言うと、ドミエルが4人に紙とペンを渡す。  数分後、4人の希望が書かれた紙とペンが回収され、サマエルはドミエルから受け取ったそれに目を通す。 「ふむ……お前ら、本当にこれでいいんだな?」 4人とも、同時に頷いた。 「分かった。すぐに準備出来るものはやっておこう。時間がかかるものとかは後日連絡する」 「あ、はい、了解です」 「それから」 「?」 一呼吸置き、サマエルは4人を見て微笑みかけた。 「よくやってくれた、感謝する。今後も頼むぞ」 普段とは違う、少し優しい声音でそう呼びかけた。 「……え、あ、は、はい!」 「……以上だ。解散とする」 ドミエルのその一言で4人は部屋を後にする。 「……さて、ドミエル。お前らのやったことに関してなんだが」 「と、言いますと」 「とぼけるな。お前が堕天使を自首するよう圧かけたんだろう?」 「…………」 サマエルは頬杖をつき、ため息をついた。 「部下を甘やかすな、と言ったのはお前だろうに。あと彼らの時間転移に対して陰湿な返しをした受付に対しエラタオルの送った正論の長文メール、サバオトは……まあ、いいか」 「サバオトはいいのですか」 「相談に乗るのは上司の仕事の一つだからな」 「……申し訳ありません」 頭を下げるドミエルを見て、サマエルは背もたれに寄りかかる。 「部下の面倒見るのはいいが、甘やかしすぎるなよ」 「肝に銘じます」 「ならいいんだが……とりあえず、お前もお前の仕事に戻れ」 「了解しました」 扉を開け、失礼しました、と頭を下げてドミエルは退室する。閉じられた扉を見て、サマエルは小さくぼやいた。 「……あいつの『肝に銘じます』は何回目だっけか」 サマエルはまた小さくため息をついた。 「……私も甘いな。全く」 施設の廊下を歩く4人は深く安堵し、息を吐いていた。 「にしても、めっちゃ大目に見てくれたよな」 「うん。俺堕天使の件で1個に減らされるかもって思ってたしな」 リールとエムグの言葉に、クロハとホロウも頷く。 「てかさ、みんな要望なんて書いた? 休暇以外で。俺はボーナスって書いたんやけど」 「あー、俺は寮の回線良くしてくれって書いたな。ダメだったら後日連絡来るやろうし」 クロハの言葉にホロウは気になった事を告げる。 「え、それって寮全体になるんですかね? それとも流石にクロさんの部屋だけ?」 「どう……なんやろねぇ。まあ流石に個人やないかなーって俺は思っとるけど。え、ホロ君は?」 「俺もボーナスって書きました。お金欲しい」 「おー、流石強欲なホロ君やねえ」 「やかましいですよ」 リールの茶々に笑って返すホロウ。そして、3人の目はエムグに向いた。 「で、エムさんは何頼んだん?」 「え? あー……」 「エムさん、もしかしてサマエル様に、えーっと、その、マジでそういう事を……?」 「ホロ君それわざわざ聞くぅ?」 「エムさんは俺達の期待を裏切らないと信じとる」 「いや、君ら俺の事なんだと思ってんの!?」 思わずつっこむエムグに対して、リール、クロハ、ホロウは同時に言った。 「だってエムさんやし」 「ゆりかごから墓場までって前言っとらんかった?」 「エムさんならやってくれるかと」 「君らねぇ……」 苦笑いし、ため息をつくエムグ。 「そんなんあの人が許しても、なんか、こう、本人前にしたら怖くて書けねえよそんな事!」 「え?」 「え?」 「えっ?」 「え?」 「んー、まあ、エムさんそういうところあるしなあ」 ホロウとリールは驚き、エムグはそれに驚くが、クロハはそれ程驚きはしなかった。 「え、じゃあ何頼んだん?」 「あー、まあ……普通に、ボーナスです」 「……解散!」 「なんで!?」 リールとクロハのやり取りにホロウとクロハは思わず笑ってしまった。  そして、彼らには数日の休暇とクロハ以外の3人にはボーナスが振り込まれた。 後日、『死の天使』のの回線が良くなったと、隊員たちの間で話題になった。
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