第五話 懐刀、竜虎相搏

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2日後。 「――んじゃ、先日言った通りこれから上位3人の戦闘の見学を始める。お前らは絶対入ってこないようにな、巻き込んじまうから」 サバオトは隊員達を前にそう言った。今日は訓練は無く、代わりに3人が戦うさまを目の前で見る事となった。ざわつく隊員達をよそにサバオトはエラタオル、ドミエルと向き合う。 「……で、どうするよ? 流石に3人でやるのはあぶねえし」 「じゃんけんで良いのでは? 勝った2人で戦うのがいいと思いますわ」 「うし、じゃあそれにするか」 一回目はサバオトとエラタオルで戦うことになった。ドミエルは隊員達と共に観戦だ。  向かい合い、屈伸運動をするサバオトと2丁の 拳銃の調子を確認するエラタオル。 「久しぶりにやるけど、手加減しねえからな」 そう言いながら、サバオトは背負っている大剣を両手で持ち構える。エラタオルはサバオトの言葉を聞いてくすりと笑う。 「あら、むしろ手加減なんてしようものなら……」 器用に2丁の拳銃を回し、銃口をサバオトに向けて構えた。口元は笑っているが、その目は射抜く様な視線をサバオトに向けていた。 「その頭、ブチ抜きますわよ?」 その言葉に、サバオトの口角がニイと上がる。普段の無邪気な少年の笑顔とは違う、凶暴な笑み。  その様子に恐怖を覚える隊員達がいる中、ドミエルの合図で死闘(手合わせ)が始まった。  合図と同時にサバオトは地面を蹴り、一気にエラタオルとの距離を詰める。接近戦に持ち込めば、サバオトの方が有利なのは誰の目にも明白だ。  エラタオルは前方に高く跳躍し、身体を捻って眼下のサバオト目掛け2丁の拳銃から無数の弾丸を放つ。  上から降り注ぐ弾雨を、サバオトは大剣を盾にする事でやり過ごした。その間にエラタオルは地面に着地し、2丁の拳銃を回転させる。 「……出るか」 ドミエルが小さく呟いた。回転させた銃を腰だめに構えると、2丁の拳銃はいつの間にか2丁のアサルトライフルに変貌していた。  その様子に隊員達はざわつく。なんだあれはという者もいれば、来たぞ、と期待の言葉を漏らす者もいた。 「っ!」 サバオトは咄嗟に防御の構えを解き、動きやすい様に体の重心を僅かに変える。次の瞬間、先程以上の弾雨がサバオトを襲った。  絶え間なく襲い来る銃弾を、サバオトは連続でステップを踏み絶えず移動する事で何とかかわしていた。 「相変わらず容赦ねえ弾幕だよな! 迂闊に近づけやしねえ!」 「貴方の方が接近戦は有利なのだから、近づかせないのは当然でしょう!?」 大きく声を上げて会話するが、絶え間なく響く銃声で掻き消されそうになる。  防戦一方だが、斜め前に回避を続けていたおかげで少しずつ距離を詰められてはいる。勿論、エラタオルもそれに気づいている。  突如エラタオルは真上高く2丁のアサルトライフルを放り投げると、スカートの中から今度はライフルを取り出した。  素早く弾を込め、突っ込んでくるサバオトの進行方向の地面目掛けて弾を放つ。 「やべっ!」 着弾すると同時に爆発が発生する。どよめく隊員達だが、ドミエルは動じず視線を上に向けていた。その視線の先には、先程放り投げたアサルトライフルを地面に向けて構えるエラタオルが空中にいた。先程の爆発を利用し、普段よりも高く跳んだのだろう。  爆煙の中に銃弾の雨を降らせ始めるエラタオル。しかし何かに気付き、2丁のアサルトライフルの側面を合わせると1丁のショットガンに変える。ショットガンを腰だめに構えて身体を捻り後ろを向いて引き金を放つ。そこには大剣を盾にして銃弾を防ぐサバオトがいた。 「バレたか!」 「剣振り下ろす瞬間の貴方の殺気に気づかないわけ無いでしょう!」 もう一度引き金を引き、反動を利用してサバオトよりも早く地面に着地するエラタオル。スカートの中から手榴弾を取り出し、口でピンを抜くとサバオトが着地するであろう箇所に投げ後ろに大きく跳んだ。 「あっ!?」 爆発に巻き込まれるサバオト。エラタオルはそれを見て更に後ろに下がり、ショットガンを両手で持つと今度は2丁のスナイパーライフルに変わる。腰だめに構え、様子を見る。 「な、なんなんだあれ……さっきから、銃を変えたりスカートから武器出したり……」 隊員の1人が呟くと、今まで無言だったドミエルが口を開いた。 「……『猟犬』」 「え?」 「エラタオルの能力だ。あいつは古今東西の射撃武器や爆発物に部類する物を自在に操る。弓矢から最新の銃、火炎瓶から手榴弾。スカートから武器を出すのは能力とあの装備の特殊性を合わせたものだ」 爆煙はまだ晴れず、エラタオルは表情を変えずに銃を構えたまま動かない。 「従来の身のこなし、発想力から来る先を見越した行動、手数の多さ。それがエラタオルの武器だ」 「そ、それってサバオトは勝ち目が」 「だが」 隊員の言葉を遮るようにドミエルが言うと、爆煙の中から咳き込む声が聞こえた。 「ったく、着地狩りとか相変わらず容赦ねえよなー」 傷だらけになりながらも、大剣を片手にサバオトは立っていた。 「えっ……?」 「サバオトの耐久力と筋力、精神力の強さ、そして奴の能力も、エラタオルと戦うには充分なものだ」 大剣を少し強く横に払うと、残っていた煙が晴れる。 「それぐらいしないとサバオトには勝てませんもの。というか、私の場合貴方の様なタイプは近づかれる前にやらないといけませんし」 「はは、そりゃそうだよな。でもまあ」 サバオトが大剣を振るった瞬間、雰囲気が変わるのをエラタオル、ドミエル、隊員達は感じた。 「……!」 「俺だって、負ける気ねーから」 口角は上がっているが、目が違う。それを確信したエラタオルは素早くライフルの引き金を左右交互に引き始めた。  サバオトは先程以上の速度と起動でライフルの弾をかわしながらエラタオルとの距離を一気に縮める。 「ッアァッ!!」 雄叫びのような声とともに振り下ろされた大剣をすんでのところでかわすエラタオル。大剣が地面に触れた瞬間、そこを中心として強力な衝撃波が発生した。 「くっ!」 エラタオルは衝撃波で吹っ飛ばされるが、宙で身体を捻り同時にライフルの1丁をサブマシンガンに変えた。地面に着地するが、勢いを殺せず地面を滑る。 「ようやく、本番ですのね。手抜いたら頭ブチ抜くって言ったはずですわよ?」 「しゃーねーだろ、しばらくぶりの発動なんだから」 見ていたドミエルが、呟く。 「……あれがサバオトの能力、『嫉妬』」 「嫉妬?」 「あいつは相対する者が強ければ強い程、その者に対する勝利や力の渇望から純粋な力を増す。単純故に強力だ。そして」 サバオトはエラタオルを見据え、大剣を両手で持ち構える。 「サバオトは逆境に置かれれば置かれる程、その力を増幅させる。相手との力の差、地形の有利不利、数の差……何であろうと、奴は不利を力にする」 じゃり、と土を踏む音がした瞬間、エラタオルは自身の左方向にサブマシンガンの銃口を向け引き金を引いた。強く地面を蹴る音が鳴ると同時に、エラタオルから見て左方向の地面が強い力で、深く抉られていた。 「チィッ!!」 ギリ、と歯噛みしエラタオルはライフルの銃口を自身の肩越しに後ろに向けた。引き金を引くと同時に再び地面を蹴る音がする。 「ああもうちょこまかと!!」 次の瞬間、エラタオルの腹にサバオトの脚がめり込んだ。 「ガ……!!」 サバオトに蹴られ、肋骨からミシリと嫌な音が鳴った気がした。地面を何度も跳ねるエラタオル。しかし宙で身体を捻り、地面に足を着け蹴られた方向に滑りながらも身体はサバオトのいる方向を向く。  ライフルをしまい銀食器(シルバー)を片手の指の間に挟み構える。腕を払うようにしてそれを投げると、サバオトは地面を蹴ってそれをかわした。  しかし次の瞬間には銃弾がサバオトを襲う。銃弾の雨を大剣で防ぎながら、サバオトはエラタオルの方へと突っ込んでいく。 「く……!」 「っらああぁぁぁ!!」 エラタオルの攻撃は確かに強力だ。だがそれは銃火器での手数によるものであり、もしそれをものともせず接近してくるようであれば旗色は途端に悪くなる。  反対にサバオトは遠くにいる相手に攻撃する手段を持っていない。しかし近距離戦に持ち込む事が出来れば重い一撃を連続で放つことが出来る。なんなら防御を捨てダメージを覚悟で距離を詰めることさえ可能だ。  近づかれる前に相手のダメージを稼ぎ、倒される前に倒す。ダメージを覚悟で懐に潜り込み、一気に叩き潰す。エラタオルとサバオトの戦法は真逆だった。  サバオトはエラタオルの銃を持つ左手を蹴り上げる。握っていたサブマシンガンはエラタオルの手を離れ宙を舞う。 「あっ……!」 しまった、という表情をするエラタオル。 「取ったあああ!!!」 サバオトは腰だめに構えた大剣を勢いよくエラタオルに突き出した。  勝敗は決した。 「勝者、サバオト」 静まり返った訓練場にドミエルの声が響く。 「…………」 「…………」 隊員達は唖然としてそれを見ていた。これが彼らの手合わせなのか、と。 「……今回は俺の勝ちだな、エラタオル」 突き出した大剣を引き、背中に背負うサバオト。 「……。……あーっ、負けましたわ! 今回も勝てると思ってたのに!」 先程のサバオトの突きで僅かに破れたメイド服の左脇腹部分をちらりと見た後、大きく息を吐きエラタオルは叫んだ。 「だから言ったじゃねえか、手加減しねえって」 「うぅ……次は負けませんわよ!」 息は切らしているが、あれ程の激戦を繰り広げた直後だと言うのにサバオトもエラタオルも笑っている。 「30分休憩としよう。その間にどちらが私と戦うか決めておけ」 ドミエルはそう言いながら訓練場に背中を向けた。サバオトとエラタオルはそれに軽く返事を返すが、隊員達は皆まだやるのか、と戦々恐々していた。  自分が戦う訳では無い。それなのに30分後を思うと多数が恐怖を感じ、少数は不思議にも高潮感を覚えていた。
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