1.恋の三角関数

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1.恋の三角関数

 帰宅部の活動は帰宅する前に終わる。  学校内の部室棟の長年使われていなかった空き部室を占領もとい使用して、れっきとした部活動を行うのだ。  活動内容は、絶対領域の向こうにあるとかないとか。  帰宅部だけ部室が無いのはおかしいとお嬢が生徒会に駄々をこねた事で実現した部室だ。部室棟の清掃や生徒会の事務を時々補佐する事を条件に獲得した部室で、今日もお嬢とおかみ、せおちゃんの三人はそこに集まった。 「あー分からん」  おかみは数学の宿題とにらめっこしていたが、分からなかったようで匙を投げてしまった。スマホをいじりながら横目でその様子を見ていたお嬢は、また始まるぞと身構えた。 「三角関数……ここに代入するのは、おかみの恋心」 「えっ、まじ!?はっ……!よく見たらこのθって、婚約指輪に似てる!」 「さあ、それをタンジェントさんにはめてあげて」 「だめっ。私はサインさんが好きなの……!タンジェントさんにはあげられないっ」  よよよ、と泣き崩れるおかみに、裏声のせおちゃんが言った。 「何よ。あなたは私が一番だって言ったじゃない!」 「き、君は!コサインさん!は、話を聞いてくれ!」 「四人いるじゃねぇか」 「これがホントの、三角関係ね」 「どっ」 「口に出すんかい」  無表情でふざけるせおちゃんは、「あたまがよくなるほん」という頭が悪そうな本を上下逆さにして読んでいる。よく見るとその本は内側に別の本を重ねているようだ。そしてその二重にした本に隠してお弁当箱が置いてあって、その影で小さな文庫本を読んでいる。 「何から隠れてるんだよ」 「……納税からかしらね」 「もしもし?警察ですか?」 「冗談よ。本当は……数学の課題からよ」 「じゃあさっさとやれや」 「いやよ!私はy軸さんが好きなんだから!」 「x軸さん……!?」 「風呂敷広げすぎて終わらなくなるぞ」  せおちゃんとのやり取りでお嬢は自分にも宿題が出ていた事を思い出し、慌ててスクールバッグを探り出した。教科書とノートを引っ張り出しながら帰宅後の予定を改めていると、ふとある事を思いだす。
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