海と翠玉

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あの子は誰かに言われてやっているのだろうか。 確かにこの時期にはバーベキューや手持ち花火をする人は来るので、それぞれ楽しんだ後そのままゴミを持ち帰らない人や意識せずとも忘れて行ったのであろう袋が砂利の上にぱらぱらと落ちている。 五分ほど俺は風に当たり水平線を眺め夏の空気を感じた後、その間もずっとゴミ拾いをしていた彼女に声をかけることにした。 一人でゴミを拾っているのが姿がなんだか気の毒に見えたのだ。どこの誰が置いて行ったかもわからないゴミを彼女は一人で拾っているのである。ゴミを拾う人間は必ず決められた場所にゴミを捨てるだろうから彼女が捨てたゴミなど一つもないだろうと俺は確信していた。そう思うと俺は彼女を手伝いたいと思った。 俺は下に降り彼女の方へ向かった。 初対面でいきなり声をかけることになるが悪意はないので彼女もわかってくれることを願い あの、と俺は彼女に声をかけた。 自分に声をかける人などこの場所にいないと思ったのか、彼女は体をびくりとさせてこちらに顔を向ける。しかしこちらの顔を見るなりどこか安心したようにふぅ、と息をついた。 「なに?」 「え、あ、こんにちは…」 初対面のはずなのだが、想定外に砕けた返事が来たので少し動揺してしまった。 「さっきまで向こうから見てたんだけど、一人でゴミ拾いしてたみたいだったから。俺も結構ここに来るし、手伝いたいなって思って」 俺がそういうと彼女は目を丸くして、 「え、本当?正直なところ手伝ってくれると助かるけど、本当にいいの?面倒臭いよ?」 手に持っているゴミ袋はまだ三分の一も入ってはいないが、これからまだまだゴミを拾うのであれば重くなるだろう。手伝うつもりで降りてきたのだから手伝うことにした。 「あ、自己紹介がまだだったね、西宮詩歩(にしのみやしほ)って言います。」 俺も名乗っていないことを思い出し、すぐさま名乗る。 「俺は花岡陽太(はなおかようた)です。じゃあゴミ拾いしようか」 俺は彼女からゴミ袋を受け取り、一緒に歩き始めた。
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