光の入らない部屋と笑わない少女

2/51
前へ
/1749ページ
次へ
   その日は全国的に寒波が押し寄せると天気予報で報道があった日だ。外に出れば、コートとマフラーで丸くなった人々が道を歩いている。    そんな中、室内と言えども額に汗をかきながら動き回る自分をよくやったと褒め称えたい。買ったばかりのエアコンから出る温風は20度設定。いっそ切ってやろうかと思った。  山になった段ボールを一纏めにし、滲んだ汗を拭くと、一人で声を上げた。 「完了!」  誰もいない部屋にその声は響き渡る。ぐるりと見渡せば、新品だらけの家具家電が並んでいるワンルーム。  広さは12畳、トイレ風呂は別。大きなクローゼット付き、キッチンのコンロは2口。一人暮らしならば、荷物も少ないし12畳で十分に思う。  築年数は、新築とは言い難いものの十分状態がよいアパートだった。アパート入り口にはオートロックも付いており、私としては文句なしの物件だった。  知り合いの紹介でたどり着いたこのアパートの引っ越し作業を今しがた、終えたところである。  さて、と息を吐き、近くに置いてあった鞄を手に取る。中には小さなアルバムが入っていた。  パラパラとめくり、一枚選ぶ。母と二人で温泉旅行に行った時の写真だった。  買ったばかりの写真たてを箱から出し、その一枚を入れてテレビの横に置いた。写真の中で笑う二人を、目を細めてみる。 「お母さん、新生活だよ!」  決意を込めた声が、自分を奮い立たせた。  黒島光(くろしまひかり)。それが私の名前だ。  ぱっと見どこにでもいる普通の女だが、一つだけ変わった特技がある。それが、『みえざるものが視える』という事だった。
/1749ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4560人が本棚に入れています
本棚に追加