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 長い黒髪の女性が立っていた。紺色のワンピースに白い肌、大人しそうな垂れ目に目元のホクロが印象的だった。優しく微笑んだ女性は、腕にふわふわのポメラニアンを抱いていた。白い犬は舌を出して笑っているようにしてこちらを見ている。 「 ! 」  彼女はゆっくりこちらに足音もなく歩み寄ってくる。未だ泣いている須藤さんの隣に立った。温かい目でじっと須藤さんを見ている。そして幸せそうに笑うと、その目から一つだけ涙をこぼした。  私は言葉もなく、その人に見入っていた。とても美しい人だと思った。美人だとかそういう言葉ではなく、優しさが詰まっているような包容力のある人だ。首のない状態では恐怖心があったが、こうしてみれば敵意も悪意も何もない、優しい霊だった。  泣いた弥生さんの頬を、大福がぺろりと舐めて涙を拭き取った。弥生さんはくすぐったそうに笑う。そして私たちの方に向き直った。  彼女は私たち三人の顔をしっかり順に見ていくと、ゆっくりと頭を下げた。ありがとうございます、と言っているようだった。私の目からも涙がこぼれたがそのままに必死に答える。
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