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 お礼を言うのはこっちです、助けてくれてありがとう。私の命があるのは弥生さんのおかげです。  あなたがいてくれなければきっと私はこの世にいない。散々警告してくれたのに気づけなくてごめんなさい、どうか安らかに。  顔をあげた弥生さんは笑った。そして最後に今一度泣いている須藤さんを見、その頭に片手を置いた。ふわりと頭を撫でるように腕を動かしながら、彼女は大福と共に消えた。  温かな空気が残っている気がした。優しさと愛しさでできた空気。 「弥生さんって……優しそうな人ですね。涙ボクロが可愛らしい」  私がつい声に出して言うと、驚いたように須藤さんが顔をあげた。私は目を細めていう。 「大福を抱っこしてましたよ。仲良しですね。須藤さんを励ますように頭を撫でながら消えました。ようやく眠ったんでしょうか」 「お姉ちゃん……?」 「大福がそばにいてくれたのはよかったですね。きっと一人より寂しくないから」  私の言葉に、須藤さんは答えなかった。ただそっと自分の髪を触り、唇を震わせながら止まらない涙をこぼし続けた。 (姉妹、か……)  弥生さんのために必死に泣く須藤さんを見て、私はぼんやりと思う。幼い頃は仲の良かった、今はもう会うことのないあの子のことを。
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