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 げんなりする。人に好かれてそれを断っただけであんなことになるなんて、弥生さんが哀れすぎる。そんなことで人の命を奪ったあの人を、一体どう憎めばいいんだろう。  最初に開けたクローゼット。その隅に山になっていた服たち。菊池さんが耳を赤くして、急いで片付けたから、と言い訳していたのをすっかり信じ込んでいた。  私は深い深いため息をつく。もう少しで私もそうなるはずだったんだ。あの頭がイカれた人にノコギリで首を……これ以上は想像するのはやめておこう。ただでさえ事件後食欲も無くなっているのに。  私が一人で考えを巡らせていると、ふと隣に座る九条さんがこちらを見ているのに気がついた。やけに真っ直ぐ見てくるので不思議に思い首を傾げる。 「どうしました?」  私が尋ねると、彼は何も言わず無言でゆっくり頭を下げた。突然のことに飛び上がって私は驚いてしまう。 「九条さん?」 「すみませんでした、あんな目に遭わせて」
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