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プロローグ
「――君達には、この部署で……今まで培ってきた経験や才能を遺憾なく発揮し、輝いて欲しいんだ……」
仕立ての良さそうなスーツを身に纏った男は、切長の目とスッと鼻筋の通ったクールな雰囲気の顔立ちとは裏腹に、熱のこもった口調で聞いている側が恥ずかしくなるような言葉を何の躊躇もなく二人に告げた。
此処は都内某オフィス街に本社を構える某有名企業の会議室の一室である。
男の言葉を聞き、怯える様に身体を竦める見るからに頼りなさげな男と冷めた顔で頷く妙に堂々とした態度の女――
二人は、この日――めでたく再就職が決まったのだが……
◇
女は総務部宛ての社内メールをクリックし、ひと通りざっと目を通す。
一応、総務部に配属されている手前、女はそれらしいことをして自分を納得させているのだ。
「雛子さん、偉いなぁ。ちゃんとメールチェックしてるんだ」
ミーティングテーブルに頬杖をつき、少しパーマがかった癖毛を自分の指で弄びながら男は言う。
雛子はそんな男の言葉を無視して、今度は文書作成ソフトの画面を開き、何やら文字を打ち始める。
「ねぇ、無視しないでよー」
男は少し甘えたような声を出し、テーブルの下で脚をばたつかせている。
すると雛子は無言で振り返り、男を一瞥し舌打ちをした。
「ヒィ、こわっ!」
男は怯えたフリをしながらも、どこか満足気である。
「新さぁ……そうやって朝からダラダラしてて一日長く感じない?」
雛子は男に背を向けたまま、呆れたような声で言う。
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