ヒイヅルトコロ。―出張茶番劇・春―

2/19
前へ
/21ページ
次へ
 其れは、ひとつの約束が切っ掛け。  東の御所へ、今年も春がやって来ようとしていた。庭にて、膨らんだ桜の蕾を指差し、帝御寵愛の后妃が無邪気な笑顔を見せる。 「――一刀、桜が咲き始めてるよ。楽しみだね!」  近付く春の気配への嬉しさに、錦は一刀を振り返える。少し後ろを歩いていた一刀も、そんな笑顔を目にし表情を和ませて。 「暖かくなってきたからな……もうじきだろう」  桜へ顔を向け、そう答える優しい声。錦も同じ木の下に並ぶと。 「東の御所でお花見ってあるのかな。何をするの?」  笑顔で、いとおしき方が育った国で培われてきた文化の在り方を問う。一刀は、桜よりそんな錦へ顔を向け微笑んだ。 「桜が咲く頃に此処東では、毎年治安維持部隊を筆頭に演武の宴を行うのだが……其れに花見も予てと言う具合だ」  成る程。東の演武とは、聞くだけで其の重みが違う。 「そうなんだ……凄いなぁ。西では、歌会と舞を披露する機会があるけど……演武は、そう大きな規模ではないな……」  文化の違いを改めて噛み締め、感銘を受ける錦へ一刀は話を続けた。 「東は、古より武を重んじてきたのでな。其の成果や精神、日々の努力を天へ向け披露すると言う意味があるのだ……技量により、審査を通過した一民の演武参加も可能だ」  錦は、其の規模に驚きつつも目を輝かせる。是非、其れを目にして観たいと。 「じゃあ、一刀も何かするの?」  期待を込めた眼差しに、一刀は苦笑い。 「一応な。俺は今年、騎射術を披露する事になっておるが」 「一刀って、馬に乗っても矢を射れるのっ?」  驚き、期待、尊敬、錦の眼差しは更に期待と共に輝きを増した。流石に一刀はたじろぐも。 「そう驚く事か。戦等では、あらゆる状況に対応出来る技術が必要だろう。得手不得手はあるが、取り敢えず問題無い程度には仕上げている」 「凄いなぁ。一刀は、何でも出きるんだね……!」
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

46人が本棚に入れています
本棚に追加