ある日、猫になると言われて

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 私は猫である。  は?何言ってんだ、こいつ。って思うよな。俺も思う。けれど猫が猫であるのに理由は要らない。だって、君たちも理由もなく人間やってるだろ?  ヘンタイさんですねぇ。って、ちょっと待て。いやマジ待って。わかった、わかったから。ちゃんと説明するから。俺が何故、猫と自称しているのか。  あれは一ヶ月ほど前、ああヒトだと一週間くらい前か、のことだった。  その日、いつも通りに帰宅した俺は、久しぶりに郵便受けを開けた。アマゾンで本を頼んで、そろそろ届く頃合いだったからな。まあ案の定チラシでパンパンになっていたから、どっさり全部持って部屋に帰った。風呂も飯もそっちのけにして、一つ一つチラシを確認していった。真ん中辺りだったかな、ちぇっ本ねぇじゃんって思ってトイレに行こうとした時、一通の白い封筒を見つけた。宛名は確かに俺で、しかし送り主はどこにも書いていない。何だこれ?まあいいや、ト~イレっ。と、空腹とを思いだし、そいつの開封を先送りにした。  翌朝。スマホのアラームでは起ききれず寝坊をした。三度寝に移行し始めのウトウトの頭が、それを着信音だと気がつくまでに大分時間がかかった。寝ぼけ眼でようやくスマホの画面にピントが合う頃には、切れてしまった。やべぇ、どうしよ、かけ直すべき?いやまたかけてくんじゃね?てか今何時?そうねだいたいね~ぇぇええ!?おもっくそ寝過ごしたぁ、はっ、やっぱそうじゃん係長じゃん、かけなおさ、うおっ、あっもしもし~。  「寝ぼけてんのか?ニャゴニャゴ言って無いで、さっさと会社に来い。」  ニャゴニャゴってなんだ?とにかく出掛けなきゃ。  トイレに行って、歯磨いて、鏡に映る俺は今日もイケメン!んな事やって無いで、着替えて、鍵カギ。なんか顔洗いたいな、こりゃ雨降んな。  寝坊した言い訳を考えつつ、もうちょっとサボるか、なんて思ってわざわざ歩いて会社に向かった。自転車だと10分くらいの距離。お昼前には辿りつけるか。結局、センスの無い言い訳しか思い浮かばず、はぁなんてため息をつくから壁にぶつかった。か、壁?正面を向く。そこにあるのは壁じゃない、自動ドアだ。えっ、何で?故障かな、ドアの前でウロウロする。反射して見える自分越しに、同僚の佐藤を見つけた。手を振ると、こっちに気づいてくれた。呆れたような佐藤の表情に、今度かつお節でも奢ってやろうと誓う。佐藤が向こうからドアに近づくと、スーッと開いた。あれ?普通に開いた。  いや~、寝坊するわドア開かないわで踏んだり蹴ったりだわ。「わー、可愛いニャンコー!」ちょ何言って「えっめっちゃニャゴニャゴいってるー」あっ係長!遅れて「高橋のヤツ、ふざけているのか?猫の手を借りるほど今は忙しく無いのだが。」「係長ウマーい。」「アイツは一先ず置いといて、佐藤さん仕事に戻ろうか。」  え。えぇ~。何なんだよ。あっ、そーゆー感じ?ドッキリてきな?ならはよ。大成功てきなプラカードはよ。うん、無いよな。じゃあ、とりあえず今日は帰りますわ。今来た道をトボトボ歩き始めると、額に滴が当たった。ほらな雨降ってきた。だからさっき顔洗いたくなったん、だよ?思考の途中で引っ掛かる。なんだ、この、猫的な考え方。猫。さっき佐藤は俺の事ニャンコっていたよな。係長もそうだった。ということは。自動ドアが開かなかったのは、俺をヒトとして識別しなかったから?まさか。だって、自分の姿は変わってなかったじゃん。とにかく家に帰ろう。きっとこういう夢を見てるんだ、きっと。
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